|
■ 飛翔 〜空モ飛ベルハズ〜
とある酔っぱらいどもの一コマ。というか酔っぱらってなくても彼らのテンションは高い。体温に換算するなら平熱39.6度っくらいだ。
そんな彼らの中のとある人物は、疲労度や酔いがピークを迎えたりして「大丈夫かー?」などと訊かれると、しばしばこんな口癖を言い放つ。
「大丈夫大丈夫!その気になりゃあ、まだまだ空だって飛べるって!」
と。いつもなら、そこで「ばーか何いってんだか」となるのだが、その日は違った。
「お前、いつもそんなこというけど、大体どうやって飛ぶんだよ」と、つっこまれたのだ。だが、彼は動じない怯まない省みない。落ち着き払って構えると堂々と宣言した。
「こんな感じ」
確かにちょっと飛べそうである。
だが、質問者は怯まなかった。大笑いしながら反駁したのだ。
「ばっか、おめーそんなんじゃ飛べないよ?そもそも羽ばたこうってのが間違い。時代はね、もうそんなところにないの。もっとこースムーズに飛ばないと。お前のは羽の形がなってないよ」
時代ってなんのだよとか、そういう疑問やツッコミを全て置き去りにしつつ、そう云うと質問者は構えた。
「これがオーソドックスだよ」
なにが。
だが、これもまた確かに飛べそうではある。しかし彼もまた大笑いしながら反論を重ねた。
「わかってない。お前は空を飛ぶってことをまるで理解してないよ。なんだよそのやる気のないポーズは。それじゃお前アラレちゃんか小川直也の飛行機ポーズだよ。あとあれだタイタニックかよ!ったくよーなんつーかお前のは全体的に気合いが足りてない。飛んだ気になってるだけなんだよ」
「なんだよ〜。じゃあお前の云う気合いの入った飛び方ってどんなんだよ。見せてみろよー」
「こう」
「うわ!速そう!」
「だろ?!この腰の角度と肩のラインが重要ね。顎の上げ具合も肝心だし、なによりも手首だよ」
「悔しいけどよくわかるよ。なにその意味ありげに微妙に曲がった手首に秘密が!?」
「当たり前だよ。おめーまだわかってねーな?この手首の角度で高度調節すんだよ。なにしろマッハ出るからな。地表障害物とか当たっちゃうからな」
「マッハでんの?!音の壁超えるのかよ。すげーなー!」
「ああ、それだけじゃねーぜ。高度調節は地上障害物を避けるだけじゃねーんだよ。なにしろマッハだから上にだって気をつけねーとな。下手したらあっとゆー間に大気圏外だぜ?」
「宇宙?!」
「応よ。さすがのこの構えも無重力仕様じゃないからな。宇宙は宇宙でまた構えを変えないと、呼吸もできねーからな」
「構えかえるだけで息出来るのかよ!」
等、延々とこの会話と「構え合戦」は続いたのである。
まだ本格的な酔っぱらいの出る年末までは時間があるが、読者諸兄諸姉も、酔い覚ましをしつつ外を歩く際、時折繁華街の空を見上げると、彼らが飛行する姿が見えるかも知れない。
なぜなら彼らはかなり真剣に、その後も「如何にして空を飛ぶか」について語っていたわけであり、その一方などは「やばい。本当に飛べそうな気がしてきた!」等といいながら、マッハの構えで繁華街を疾走しはじめたりしたからである。
だが決してあざ笑う事なかれ、である。人間にはまだまだ隠された無限の能力があるという。彼らが空を飛ぶ日も決して遠くないのかも知れないのだから――。
バカでごめんなさい。 (一番問題なのは二人とももう酔いは醒めていたことです)
|
|