じーらぼ!言戯道場 (G-LABO Gengi-DOJO) 管理人:みやもと春九堂(しゅんきゅうどう)

【 2005年01月21日-10:55 のつぶやき】

Oh! mammy!


友達と電話で話していた時のことだ。そいつは食事中だったらしいのだが、僕と会話していてナニが面白かったのか突然大爆笑を始めた。

よっぽどツボにハマってしまったらしい。年に一回はこういう奇跡も起こるモノだと、日頃ザウス(倒産)すべり放題な僕はあきれたり喜んだり驚いたりしていた。

その後も会話は続いたのだが、お互いがふ、と黙り込んだ瞬間の直後に突然電話から激しい爆発音が聞こえた。そのあと友人はひたすら「ああーああー」と気が触れたバイオハザードのゾンビのような声を出している。

電話の向こうにTウイルスでも蔓延したのかと、数年来の付き合いの義理を切り捨てて電話を切るべきだと決意する直前に、友人は「吹いたー思い出しで吹いたーぐちゃぐちゃだー。あーあー」と相当ダメな感じで状況を説明した。

どうやら聞いたままの様子らしいので、僕は「電話いいから後始末しろよ」と伝えると電話を切った。友人の最後の言葉は「あーあーああー」だけだった。きっと顔中の穴という穴から色々な汁が出てしまったりしているのだろう。


僕にもそういう経験がある。むしろありすぎるほどある。かつてなど疲労がピークを迎えており、さらに寝起きだったので脳が身体に命令をし損ねてしまった結果、深呼吸とテリヤキバーガーを食べるという行為を同時に行ってしまい、軽く地獄の2丁目付近まで渡ったものだ詳細はコチラを参照

インドネシアではビニール袋に入った飲料をストローで吸い上げて、そのインパクトのありすぎる味に即時噴出して虹を作った。夏のバーベキューでは乾杯のビールを煽った瞬間鼻からも乾杯してしまい大爆発。小学校の時などは牛乳を飲んでいる友達を笑わせようとして小ネタを考えていて自爆したことすらある。

そんな噴出歴の枚挙には暇のないベストフンシュチストにノミネートされそうな僕であるが、過去の噴出事件の中でインパクトのあるモノというと、高校時代の事を思い出す。

その当時の僕は、その、なんだ、お付き合いとかそういう、ほら、まぁそういう関係の女性と、お互いの学校の中間地点にあるコンビニ前で待ち合わせをしていた。

というのも近所というには遠すぎるが、同じ市のそこそこ近いエリアにある共学高校と女子校にそれぞれ通っていたので、前の晩に電話をして時間を合わせては、放課後にそこで待ち合わせをしていたのだ。ケータイはおろかポケベルも持てなかった時代の、甘酸っぱい記憶である。


そしてここから先が問題なのだが、当時僕らの間では500mlの紙パックの飲み物を買って、凍らせてからもってくるというモノが流行っていた。それをスプーンでほじくって食べたり、もしくは溶かしてから飲むわけだ。

普通の缶ジュースより様々なラインナップがある紙パック飲料の中でも、僕は特に乳酸菌飲料の『マミー』を愛飲していた。微妙に甘酸っぱいその味が大好きだったのだ。

土曜日の半日授業を終えた夏の日。僕は前夜に約束していたとおりにコンビニ前に自転車を走らせた。その日は彼女(彼女って!)がお弁当を作ってきてくれることになっており、合流した後は近くの河原の土手か公園に行って、それを食べようというなんとも「青い山脈」的な青春を謳歌する予定だったのだ。

無事に合流した僕らはそのまま自転車で国道を越えた公園へと向かった。あずまやのテーブルに陣取って彼女は恥ずかしそうに弁当を広げる。僕もバッグの中から、タオルにくるんでビニール袋に入れたマミーと、彼女の好きなコーヒー牛乳を取り出した。


ここから先の細かい描写は、相当な勢いでどうでもいいので割愛するが、問題は食後に起こった。いつものように他愛ない話をしては笑い転げていたのだが、「当時」とはいえども高校生のお付き合いともなれば、その、なんだ、まぁ、ほら、ちゅーとかキスとかベーゼの一つや二つはブチかますものであり、当方ヤル気満々の男子高校生であったものだから、その、ほら、まぁ、一つレベル上のチューなどに興味津々であったのだ。

しかしながら触れるだけでドキドキ、キスなんか普通に唇を重ねただけで、そのまま脳血管障害で文字通り昇天してしまいそうな若造である。当然「どうするのがよいのかわるいのか」ということもわからない。

だが繰り返すが当方ヤル気満々の男子高校生であった。するとその一つの目的を持ってしまった瞬間から、ひたすらそのことしか考えられなくなってしまっていたのだ。これはもう男子高校生や男子中学生であった過去を持つ人ならば確実に共感を得られると思っている。

目の前には相手がいるのである。しかもOK気味なんである。しかしどうしていいかわからない。そもそもこう舌とかベロとかタンとか呼ばれるコレを、どのように動かせばいいのだとそればかりを考えてしまう。折しも不意に会話が途切れ、周囲には人影もなくなった夏の午後。木陰の下、さわやかな風なども吹いている。

「ああーもうヤルしかないーっつーかでもどうすればいいんだあッ!!」と、人目というか彼女目さえなければ、ものすごい勢いで縦回転したり横回転したりしたい精神状態だったのだが、そうもいかない。そこで僕は所在なさ気にマミーの紙パックを口元に運んだ。

凍らせたマミーは既に半分以上は溶けていたのだが、溶けた分はあらかたストローで飲んでしまっていたので、紙パックの中にはハンパに凍ったマミーの塊が残っていた。そこで僕は紙パックを煽って、その氷を口に運んで噛み砕こうと思ったのだが、まだそこまでは小さくはなかったようで、仕方なく紙パックを揉んで氷を潰すようにしながら、煽り続けた。

すると溶け出したマミーやら少し砕けたマミーやらが口中に流れ込んできて、非常に冷たくて気持ちがいい。しかしながらあくまでもそれらは少量で、緊張したり妄想したりで激しく渇いていた僕の喉を潤すには至らなかった。

舌先を延ばせば、そこには凍ったマミーの塊がある。緊張と妄想とでややパニクり気味だった僕は、今度は一気にコチラに意識を集中させてしまった。紙パックの中の冷凍マミーをもしゃもしゃと飲み下したかったのだ。だから僕はそのまま下を紙パックの飲み口に滑り込ませると、そりゃーもうものすごい勢いでレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレローッ!!とナメ始めたのである。


そんな風に僕は一心不乱になっていたのだが、向いに座ってる彼女がそんな僕を見てクスクスと小さく笑い出した。紙パックの飲み口にあんぐりと開いた口を押しつけて煽ってる男子高校生である、しかも割と真剣な顔をしているのだから、さぞかしマヌケだったのだろう。

もちろんのこと僕は急に恥ずかしくなったのだが、そんな風に笑う彼女の大好きな笑顔をみて、余計に照れてしまった。しかし、だがしかし、だ。照れるだけで収まらないのがヤル気満々の男子高校生たるものである。吉田照美すら足下にも及ばないほどなのだ。

紙パックを煽ったままの僕の視線は、可愛らしい笑い声をたてる彼女の口元に注がれた。注がれた上に妄想した。具体的にいうとチューの妄想をしたのだ。

そして次の瞬間である。僕はマンガの様に「ごくり」と喉を鳴らすのと、紙パックの中でシミュレーションとでもいわんばかりに「レルレロリ」と舌を動かすことを同時にやってしまった。やらかしてしまったのだ。

口の中に舌の熱で溶かされた冷凍マミーの甘酸っぱい味が広がった。しかも必要以上に。舌をそれまで以上に奥にねじ込んだせいで、冷凍マミーの塊が押し上げられて、それまでその塊の後ろに溜まっていた解凍済み超ちべたいマミーが一気に流れ込んできたのである。

口腔内から食道に流れ込むだけでなく、直球で気管にまで流れ込むマミー。甘酸っぱい味は既に拷問。耐えようと思った瞬間には既に僕は爆発していた。それも半端な爆発っぷりではない。「ぶばぶゅぼじゅばびゃーーーッッ!!」という発音も文字再現も難しいような音をたてて爆発した。


夏の午後、風吹く木陰の恋人達。衝撃で吹っ飛んだマミーの紙パックは中身をまき散らしながら空転し、僕は口から鼻からマミーと自分の「なに汁」とは形容しがたい体液とをミックスドアップした液体を噴出し、さっきまでの幸せだよボク幸せよアタシウフフアハハ的天国から、急転直下の垂直落下式に地獄を味わっていた。

普段はおなかに優しいはずの乳酸菌が、鼻腔粘膜や咽頭粘膜を著しく刺激する。そんなところを刺激しても整腸作用はない。森永だってそんなことを考えて作ったわけではないのだ。なのに僕は顔面内部にある、ありとあらゆる粘膜で乳酸菌の刺激を一心に受けていた。

一通りのむせ返りは終わったモノの、口からも鼻からも目からも何かの汁を垂らしながら僕は中腰の姿勢で、ひたすら「ちょ、ちょっとまって、ごめん、ちょっとまって」と繰り返していた。なにをどうちょっと待って欲しかったのかは今でもわからないのだが、とにかく時間を止めたかったことだけは確かだ。いや、出来るならば時間を戻したかった。噴出する前に。

しかし当時から好きになる相手というのが、笑いのツボが同じとかそういうモノが基準になっていたせいだろうか、彼女はその通りちょっとだけ待ってから、大爆笑を始めた。もう発狂したかのような大爆笑である。

つられて僕も「へへ…うへへ…」と笑い出したのだが、いかんせん前屈みで汁まみれである。多分新手の怪人か、ただのヘンタイにしか見えなかったであろう。彼女の笑い声はさらに大きさを増した。

さすがの僕も「おいおい、どんだけ笑ってんだよ」と彼女の方を見ようとしたのだが、なぜか目が開かない。焦る僕、しかし無理矢理まぶたを開けようとすると上下両のまぶたが引きつるのを感じた。

――く、くっついてる?!

この時の僕のパニックっぷりったるや、当時なら歴代ベスト5に、今振り返ってもベスト10には余裕で食い込むほどであった。簡単に状況を分析するならば、目にまで回ったマミーが夏の日差しで既に乾燥しはじめ、その過剰な糖分が粘性を発揮し、両のまぶたを睫毛をのりしろにしてくっつけてしまっていたのである。

だが、リアルタイムの僕はそんな冷静な分析など出来ようはずもない。まぶたをどうにか開けようと顔の下半分を延ばしたり眉毛をあげたりと必死になりながら「あれ?あーれ?あれ?やばい、やばいよ、目が開かない、目が開かないよ!」などと言い出したのだ。

そしてその様子を見てだろうか、彼女はさらに笑い転げた。ようやく開き始めた薄い視界の向こうで、彼女はおなかを抱え込んでテーブルに突っ伏し、僕の方に「止まれ」のサインで手を伸ばして「もう、だめ、もう、ほんとだめ、だめ、やめて、おねがい、ゆるして」と息も絶え絶えといった感じで途切れ途切れに云っていた。

そんな切ないセリフは僕らがもう少し大人になってからベッドの上で言ってくれベイビーなどと考える間もなく、僕はパニクっていたなりに「ああ、この子は今の僕の状況を助けてはくれない」と何かを諦めたりしていた。


結局、紙パック飲料を包んでいたタオルを手探りで探して、まぶたを拭いて視界を取り戻した僕は、公園のトイレでタオルをすすいで顔中を拭き、ようやく平静を取り戻したりした。ちなみにその間彼女はずっと笑い転げていた。しまいには過呼吸のように「ひゅーきひゅー」という怪しげな呼吸になっていたのだから、よっぽど面白かったのだろう。

だが僕は「なんで助けてくれなかったんや…」と恨めしがることも、「そんなに面白かった?!俺輝いちゃってた?!」などと道化きることも出来ず、ただ何も言えなくて…夏なだけであった。また、マミーくさいYシャツでブラつくわけにもいかず、その日はそのまま別れてしまい、レベルアップな大人チューはお預けになったことはいうまでもない。

後日彼女に聞いたところによると、マミーの紙パックを煽っていた僕の目が、その瞬間「くわっ」と見開いて「んくっこっかっ」というような奇声を紙パックの中であげた直後にキレイなしぶきが夏の空に吹き上がったという。

あまりの出来事に「スローモーションに見えたよ」とは彼女の弁だが、どういうわけか僕にもその時の自分の姿が鮮明に客観的視点から記憶されている。ひょっとしたらあの瞬間、僕は幽体離脱していたのではないかと思うくらいだ。


夏の午後。

さわやかな風が吹き渡る木漏れ日の下。

男の顔面から噴出されるマミー。

キラキラと輝くマミーの飛沫。

狂ったように笑い転げる女。

中腰の姿勢で目が見えないと訴える男。

さらに笑い転げ続ける女。


それはフェデリコ・フェリーニの映画を、デビット・リンチがリメイクしたかのような狂気と笑いが同居する奇妙な光景であったと思う。


これは余談だが、この事件の数年後、同じようなシチュエイションで同じ飲み物を飲んでいた僕は、この事件のことを唐突に思い出し、思い出し笑いをした挙げ句に再度噴出した。あの日と同じマミーを。あの日と同じように。そしてあの日と同じように指さして笑い転げられた。

乳酸菌飲料の金字塔「カルピス」は『初恋の味』であると昭和時代の広告で謳われた。カルピスほどメジャーな乳酸菌飲料ではないのだが、森永「マミー」は僕にとって確かに「初恋の味」であった。しかもその味を、舌の記憶だけではなく顔中のあらゆる感覚器で覚えているのである。

無論のこと2度の噴出事件の後「初恋の味」と同じレベルで「トラウマの味」にもなり、以来口にしていないことはいうまでもない。
(また噴き出しそうだしね…)



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