■ 右手が不便であるといふこと

いやまぁ今の世の中には色々なインスタントラーメンがありますよね。「お湯をかけるだけ」から始まり「お湯をいれるだけ」になり、今じゃ「あとのせ」だとか「食べる直前入れ」だとか、まぁ色々進化しているわけですよ。

そんな中最近増えてきたのが「お湯をカップに注いで出来上がるまでの間に、この調味料をフタの上に載せておいてください」というヤツ。いわゆる「食べる直前入れ」の亜種になるわけなんですが、この手の調味料は油脂分が含まれているので、それをカップからの熱で溶かしておいて混ぜやすくしようというメカニズムなわけなんですよね。

まぁそれはいい。それはいいんです。やや固形もしくはゲル状になっていた調味料が、温められることで液体化し、箸でしごいたりして絞らずとも、パッケージから一滴残らずしっかり出せるとか、そういう利点もあるわけですから。

でも、でもですね。しかしですよ。今の僕の様に手が不自由な人間には、思わぬハプニングを巻き起こす火種になるんですよね。これが。


先日のことなんですけど、どこぞのカップ担々麺を食べようと支度をしていたわけです。お湯を沸かしてカップ麺を開封し、先入れの調味料とかやくを乾麺に振りかけ、お湯を注ぐ。そしてフタをした後、あといれのピリ辛調味油をフタの上に載せて温める。まぁここまでは全く問題なかったんです。

3分経過を告げるキッチンタイマーの音と共にフタをあけて、よーくかき混ぜ、いよいよピリ辛調味油を追加せんと「こちら側のどこからでもあけられます」ラインを見定め、若干利かない右手でピリっとあけたわけです。こう、人差し指と親指でつまんだ状態でね。

中身はカップからの熱で、ちゃーんと液状になっているんですが、それでもまだ若干とろみが残っています。これをスープに混ぜるわけなんですが、その直前に「これはちょっと中身が残りそうだな」と思った僕は、右手に調味料、左手に箸を持って調味油をパッケージから絞りだそうとしたんですよね。


ところが、利かない右手で調味油の開け口を上向きにしたまま持っているもんですから、これをひっくり返して中身をカップに空けるのがうまくいきそうにない。左手に持ち替えればどうということもないのですが、既に左手には箸を持ってしまっている。つまり利き手と逆。

まーなんでしょうね、ここでちょっとしたパニックが僕の身体に訪れたとでもいうんでしょうかねえ。ここで僕が何を考えたかといいますと、一旦左手の箸を右手に渡して、その後右手の調味油のみを左手に渡そうとしたんですよ。つまり左右で持っているモノを入れ替えよう、と。

だって開封済みですから「ちょっと置いて」なんて出来ないじゃないですか。いや、先に調味油のパッケージを左手に渡してから、右手で箸を持ち直すなんていう選択肢は僕の中になかったんですよ。多分お腹がすいて頭に血が回ってなかったんでしょうねえ。


で、まず第1段階として右手の人差し指と親指でつまんでいたパッケージを、右手・中指・親指でつまみ、さらに中指・親指のみでつまみ、最終的に中指と人差し指で挟む形に持ち替えたんです。皆さんもやってみてください。こうすると人差し指と親指の間がフリーになるでしょ?

それから第2段階として、そこに左手に持っていた割り箸を右手に渡そうとしたんですが、悲しいかな握力と巧緻性の落ちた右手には、この一連の動作がキャパシティーオーバーだったようなんですよね。まぁまともな状態でも若干難しかったかもしれませんが。

どうなったかといいますと、持っていたモノ、つまり調味油(開封済み)が落ちそうになってしまったんですよ。ええ、つるっと滑ったという感じですね。で、落としちゃうとさすがにマズいわけじゃないですか。ピリ辛調味油がテーブル一面に広がっちゃったりしてね、おまけにカップの中の担々麺も一味足りない未完成品になってしまうわけですよ。それは避けなくちゃあいけないじゃないですか。

ほんの刹那の出来事です。この瞬時の行動判断、皆さんならどういう行動をチョイスするでしょうか?僕?僕はもう至って簡単な行動をチョイスしましたね。

『調味油(開封済み)が落ちない様に握る』

もうねー握りましたね。「おっと」とか云いながら。でもね、なにしろ開封済みですから、さすがに思いっきり握るわけにはいかないってのは分かっていたんですよ。だから加減をしてね。軽く握ったつもりだったんですよ。でも、箸持っちゃってるじゃないですか、右手に。だから軽く握ったつもりが、箸ごと握りこんじゃったもんだから大変ですよ。

うぴゅっ

って。うぴゅってね。中身がね。担々麺のピリ辛味噌調味料がね、若干というのは憚られるくらいの量でちゃったんですよ。丁度子どもの頃お風呂でやった手握り水鉄砲みたいにね。割と勢いよく、喩えるならば多感で健康な男子中学生の何かっくらいの勢いでね。こう、うぴゅっと勢いよく。

キーボードのテンキーの上に。

なんていうかなあ、ものすごいジャストミートっぷりとでも云えばいいんでしょうかねえ、テンキーの5・6を中心にびちゃっといったわけですよ。満遍なく。そしてキーの間にじんわりと浸食。おいおい、お前が満遍なくなじむべきなのはカップの中の麺とスープなんであって、間違ってもテンキーじゃねえよとツッコミをいれる間もなく、すっかり満遍なくなじんじゃったわけですよ、テンキーと。


もうね「おっと」じゃねえよと、なにやってんだ自分とため息を吐きながら、次に僕の取った行動は、残りのピリ辛調味油をカップの中に入れて、予定通りにしっかりと箸でしごいて絞り出してよく混ぜること。どれだけ食欲優先させてるんだって感じですが、ほら、ラーメン伸びちゃうしね?

まぁその間にもテンキーの奥深くまでピリ辛調味料が、しっかりしみこんでいき、若干というか、かなり取り返しのつかないことになってしまっていたわけなんですが。うわーキー全部外しても拭き取りきれねー、みたいなね。そんなわけで、この文章は若干ピリ辛風味なキーボードで書いております。



…いつもと一味違う文章になったかな…。
(遠くを見つめながら)

(C) G-LABO Gengi-DOJO.