■ さんま

さんま。漢字では秋刀魚と書く。現在じちゃんねるで言戯道場の御題として出題しているこの魚は、日本の秋の味覚を代表するモノの一つである。

脂がよくのっており臭いも少なく、骨ばなれのいい身は味が濃く旨味たっぷりである。新鮮なものであればハラワタまで食し、その苦みすらも美味である。

七輪炭火にて特に焼くのが美味とされるものの、現代においては設備事情と煙の事情で、なかなかかなうものではない。

臭橙(かぼす)・酸橘(すだち)・柚子(ゆず)などの和の柑橘果汁を絞るもよし、大根おろしをたっぷりとかけるもよし、醤油をかけるもよし。塩を軽くふってから焼き、その塩気だけで身の味を楽しむも好い。新鮮であれば刺身でも美味で、醤油におろし生姜をあわせて食す。


ちなみに僕は焼きたてのじうじうと音を立てる内に醤油を振りかける。そのまま軽く箸で身をおさえ、肉汁と脂とをしみ出させ、混ざって旨味たっぷりになった醤油をそのまま炊きたての飯にかける。

行儀悪と叱られるかも知れないが、その秋刀魚出汁醤油飯だけで軽く一杯いけてしまう。次に皮を破って身をほぐし、付け合わせた大根おろしをほぐした身に乗せ箸で口に放り込む。大根の旨味と秋刀魚の旨味を十分に味わいつつ飯をかっこむ。

続いて中骨を丁寧に外してハラワタに臭橙を軽く絞り、醤油をかけて大根おろしと共に口に放り込む。苦みと旨味を味わってから、冷や酒で口を洗う。続いてまた身を喰い、飯を放り込む。

そうして気がつけば秋刀魚は頭と中骨と尾だけが残る。本当に美味い秋刀魚であれば、その中骨すら網で焼き、醤油をかけて香ばしくしてから煎餅のようにぽりぽりと喰らってしまう。秋刀魚とはそういう魚だ。


さんま さんま さんま にがいか しょっぱいか

明治大正昭和を駆け抜けた文学者・佐藤春夫の「さんまの歌」の一節である。

この歌は谷崎潤一郎の妻・千代に恋をした佐藤春夫が、谷崎と絶交状態になってしまい、その間に佐藤も妻に逃げられてしまっていたときに、千代を思い、谷崎を思い、自身を思って書かれたものだ。全文をここに記しはしないが、秋刀魚という季節の魚の向こうにさまざまな悲哀と思惑と情景が見える歌である。

機会があれば是非全文を読んでいただきたい。ひょっとしたら読後、秋刀魚を食すときに一風違った見方が出来るかも知れない。


秋刀魚。サンマ。さんま。

言葉だけを耳でとらえてしまえば脳裏に真っ先に浮かぶのは、よく喋る出っ歯の芸人さんかもしれない。だが秋のうちだけでも、せめて日本の食文化で愛されてきた秋刀魚を思い浮かべて欲しい。

秋刀魚という漢字、さんまの食し方、秋刀魚の文学。

日本でこれだけ愛されてきた、そして愛されているこの魚。食べるときにほんの少しでも、拙文を思い起こしていただければ幸いである。

あーさんま、さんま。

(C) G-LABO Gengi-DOJO.