じーらぼ!言戯道場 (G-LABO Gengi-DOJO) 管理人:みやもと春九堂(しゅんきゅうどう)

【 2004年06月16日-22:53 のつぶやき】

-怪談スレッド設立記念 第一夜- 「高層団地 (Rewrite ver.)」


これは唯一僕が「体験した」奇妙な体験です。


結構何度か色々なところで話しているのですが、未だにアレがなんなのかよくわかっていません。

「見た」のでもなく、「聞いた」のでもなく、「感じた」

それが一人ならばともかく、その場にいたほぼ全員が…そんな話です。


あれは中学三年生の夏休みのことでした。いわゆる少々「やんちゃ」気味だった僕は、友人達と夜な夜な集まっては、馬鹿話をしている毎日だったのですが、ある日、そんな中で怪談話となり、近隣のそういうスポットにいくことになりました。

場所は当時の、その地域の周辺の子どもらなら知らない人はいないほど有名だった「高層団地」と呼ばれている団地でした。高度経済成長期に建てられた団地で、当時では「高層」であった12階建ての建物です。


その場に行ったメンツは僕を含めて、男4人の女1人。

関係ありませんが、その女性はその年の春に卒業した一つ上の先輩でして、僕らのある意味「憧れの人」だったりしました。

仮にY先輩としますが、Y先輩は「感じる→見える→聞こえる→聞くことが出来てしまう」という霊感強い度ランキングでは、「聞くことが出来てしまう」事が多いような人でした。

それが彼女の父方の御実家がお寺さんだったことと関係があるかどうかはわかりませんが、そういう人だった事だけは確かです。彼女の逸話は色々あるのですが、それはまた別の機会に譲るとしましょう。


とにもかくにも「受験期の夏休みの息抜きに」という名目で、僕らは「高層団地」に向かったのです。

「高層団地」という名前から、既に大筋読まれているかもしれませんが、その「スポット」とは団地から飛び降り自殺をした人が、落下した地点でした。

自殺が起きたのは当時から十年近く前だそうですので、真偽はわかりませんが、その人はベランダから飛び降りたとのことで、建物に隣接している、花壇や家庭菜園用の小さな空き地に落下したということでした。

無論そこの空き地を使う人はおらず、そこは荒れ地になっているのですが、落ちたところだけ地面が固くなったのか、どういうわけか「そこだけ」雑草が伸びない、という、そんなスポットでした。


時間は夜中の2時過ぎくらいだったと思います。というのも、近所の2時まで営業のレンタルビデオショップの明かりが、もう消えていましたから。

広い道路側から見て、4号棟、3号棟、2号棟、1号棟と建っていて、「現場」は1号棟の一番奥側でした。


僕らは敷地入口に自転車をとめて1号棟に向かいました。

真下からは、首を直角近くにまで仰向けて見上げる高さの建物。そこの数多い窓の電気は、既にほとんど消えていて、虫の鳴き声だけが響いている、そんな感じでした。

3号棟、1号棟は横並びなのですが、その境目あたりで、Y先輩が「あたし行きたくない」と云い出しました。見れば、薄暗い水銀灯の明かりの下でもわかるほどに、眉をしかめています。腕で自分を抱きしめるようにして、暑い夜だというのにしきりに腕を撫でていました。


僕らはといえば、そんな先輩を後目に、というか女の子である先輩を前にしての「強がり」もあったので、そのまま歩いて、ずんずんと向かいます。

Y先輩は僕らの後ろから「やめなよ、帰ろうよ」と弱々しく云いますが、僕らは一向に聞く耳を持たないというか、聞いてはいるものの、正直怖くなってきているものの、「ここまで来たら」と後にはひけなくなっていたんです。いや、少なくとも僕はそうでした。


やがて建物前の空き地が近づいてくると、それまで軽口を叩いていた僕たちも、だんだんと口数が少なくなってきたことを、よくおぼえています。

そして空き地の前についたのですが、水銀灯の光があるものの、懐中電灯などは持ってきていませんでしたから、暗くて結局なにがなんだかはわかりません。

ただそこの区画だけ荒れ果てて雑草が膝から腰のあたりまで伸びている、ということはわかりました。ですが、「草が生えていない」という落下地点が、どこなのかはわかりません。


ただ、そんな状況でも、怖さは限界ギリギリにまで達していまして、誰もが「さっさと帰ろう」と、そう口に出そうとしていたと思います。

「なにもねーよ。先輩待ってるし戻ろ」

といったのは友人のKでした。たしか「現場」の一番近くまで進んでいたと思います。

僕も相づちをうちながら、みんなに帰ろうと促そうとしたときの事でした。



「やだーーーー!!!みんなはやく!!!」



背後から、Y先輩の半分絶叫のような声が聞こえて、僕は思わずビクっと大きく身を震わせると、先輩を振り返りつつ、走りだそうとしました。

見ればY先輩は自転車を止めた入口に向かって既に走りだしています。

「先輩どうしたんだよー!」

といったのはTだったかKだったか。

ただその言葉に被るように、「現場」の方から、いや明らかに、背を向けていた「現場」から





「どずん!!」






という落下音が聞こえたのです。そして明らかに空気が揺れたんです。


そう、まるで重い「何か」が高いところから落ちてきたような、そんな衝撃です。


もう恥も外聞もありませんでした。その出来事をきっかけに、僕は猛然と走り出しました。

やんちゃ崩れの、なけなしの根性などキレイに吹き飛び、僕は走り続けました。たかだか100mあるかないかの距離が、あれほど遠く感じた事はありませんでした。

叫び声を上げなかったのが、唯一の救いだったのか、それとも叫び声を上げる暇もないほど焦っていたのかはわかりません。とにかく走り続けました。


仲間達に抜かれたりしつつ、入口の自転車がとめてあるところまでダッシュでもどってくると、Y先輩はもう自転車にまたがっていて、「はやくはやく!」と僕らを促します。

慌てて自転車に飛び乗り、とにかく灯りの多い駅の方まで僕らは何も喋らず走りました。走り続けました。


駅近くのコンビニの前で、ようやく止まった僕たちは、息を荒げながら普通の汗と、そうではない汗をぬぐいながら、ぽつぽつ、と話をしだしました。

Y先輩は暑い夜なのに汗をかきながらも、少し震えているようでした。顔も真っ青です。


「聞こえたよな」

「聞こえた。なんかドスっとかそんな感じ」

「足下振動きたもんよ。こえー」


口々にそんなことを言い合います。


空き地の近くにいた全員が「音を聞き」近くにいた僕とKは「振動を感じた」のです。

少なくともあれは「錯覚」ではない、そう思いました。

ですが「Y先輩、音する前に逃げたよね。あれどうしたんスか?」というTの質問のY先輩の応えに、僕らは震え上がりました。


「Kくんが、近くに行ったとき「何もみえねーや」って言ったでしょ」

「うん、いいました」

「その後で、建物の上の方からね








『今、行くから』








って声が聞こえたのよ。男の人だった。あそこ本当によくないよ…もうよそう…」


――会話のタイミングから考えると、先輩がその「声」を聞いてから数瞬後に、僕らは落下音のような音を聞き、衝撃を感じました。

あまりにも出来過ぎといえば出来過ぎかも知れません。

ですが、複数人が一度に体験したこの現象は、未だに説明がつかない奇妙な体験でした。



ちなみに「高層団地」は、他にも飛び降り自殺が頻発したこともあり、僕らが行ったときより前から、そして今も踊り場・窓・ベランダなどに、全て鉄柵が設けてあります――。



さて、これが僕の体験談です。



皆さんには、こんな体験ありますか…?



是非、皆さんの体験談や、知っている話を聞かせてください…。


【リスペクト】今年もやります!怪談・怪奇体験スレッド【稲川淳二】



怖いの苦手なのに読んじゃった人、ごめんなさい。
(で、でもタイトルでわかるよね?そんなに怖くないもんね?大丈夫だよね?)



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