じーらぼ!言戯道場 (G-LABO Gengi-DOJO) 管理人:みやもと春九堂(しゅんきゅうどう)

【 2004年06月17日-23:05 のつぶやき】

-怪談スレッド設立記念 第二夜- 「仮眠室 (Rewrite ver.)」


これは僕が都内で働いていたときの話です。


当時の僕はSEのはしくれとでもいいますか、依頼を受けた会社のオフィスに行き、複数台のPCのOSやらソフトやらLANやらを構築する、という仕事をしてました。

ちなみに勤務の時間帯は、そのオフィスの皆さんが勤務を終えた後になりますから、夜ないし夜中から明け方にかけて、という感じです。給料はよかったのですが、なかなか人使いの荒い仕事先でした。


その日は僕ともう一人、Kさんという先輩との2人組で、30台ほどのマシンをセットアップしていました。そのオフィスに入ったのは21時過ぎだったと思います。

それから2人で黙々と新しいマシンのセットアップをしていたのですが、色々手こずってしまい、最終的なチェックを終えたのは、始発が走り出す3時間ほど前になってしまいました。

つまり夜中の2時くらいという、かなり中途半端な時間です。


そのオフィスがあったのは、高層ビルの建ち並ぶ完全なオフィス街でして、周辺には時間を潰す店もなく、Kさんと僕はどうしたものかと思案した挙げ句、守衛さんに相談することにしました。

オフィスには応接セットがあったので、そこで休ませてもらうだけでもよかったのですが、仮眠室があるということで、お言葉に甘えてそこで休ませてもらうことになりました。


Kさんは案内された仮眠室に先に行ったのですが、僕は守衛さんと2人で喫煙所で煙草を吸いながら、少し世間話をしていました。

そんな中、守衛さんが「オフィスの人は仮眠室を滅多に使わないんですよねぇ」と云ったので、僕は「皆さん、早くお帰りになるからですか?」と聞き返したところ

「いやーどうにもこうにも、皆さん『なんか気分が悪い』っていうんですよね…」

そう守衛さんは、少し言葉を濁す様に応えました。


先ほど案内された件の仮眠室は、オフィスのフロアの一番奥にあり、倉庫とか資料室に使われるような部屋を改造したような感じです。奥行き方向に細長い部屋で、窓は奥にしかなく通気もよくなさそうです。

そこにパイプ組の簡易二段ベッドを据え付けているだけでしたので、なるほど確かに居心地は好くないだろうなぁと思い、僕も「なるほどそうですかぁ」などと曖昧に相づちをうって、その話は終わりました。


それからしばらくして煙草を吸い終わると「オフィスに鍵をかけるから、忘れ物がないかチェックしてください」と守衛さんに頼まれ、仮眠室へ向かうついでに、守衛さんと2人でもとのオフィスへと向かいました。

仮眠室はオフィスの入口から、廊下を奥に進んだところにあるのですが、オフィスの前からそちらの方を見ると、とっくに寝ているはずのKさんが、どうしたことか仮眠室前の廊下で、へたり込んでいるのが見えました。


貧血でもおこしてへたりこんだのかと思い、慌てて駆け寄るとKさんに「大丈夫ですか?」と声をかけたのですが、Kさんは真っ青になった顔で、ただ肯くばかりです。

肩に手をかけると小刻みに震えています。もう一度声をかけると、目を大きく見開いて僕を見ながら「大丈夫、大丈夫」と呟くように応えるばかり。「貧血ですか?」という問いにも、顔を左右に振って応えるだけでした。

明らかに様子がおかしいので、守衛さんに「救急車呼んだ方がいいですかね」と相談すると、Kさんは僕の服を掴んで「平気、平気だから救急車はいいよ、ちょ、ちょっと待って。落ち着くから」といいます。

どうみても大丈夫そうには見えないのですが、へたりこんだまま、何度か深呼吸を繰り返すと


「ここよくないよ、変なモノみちゃったよ。ちょっと、この部屋の前にいたくない」


と、やっとのことでといった風情で、Kさんは云いました。


どうやらKさんはどうやら腰をぬかしているようで、僕と守衛さんはKさんを抱えるようにして、オフィスの応接セットに連れて行き、ソファーに寝かせました。


そこまで来て、ようやく人心地ついたのか、Kさんは落ち着きを取り戻すと仮眠室で何があったのか、話し始めました。


先ほども書いたとおり、仮眠室は入口から奥に向かって細長い部屋で、その一番奥は窓があり、そこにはカーテンがかかっていました。

そのオフィスがあるビルは、オフィス街のビルが林立しているところでしたので、その窓からは隣のビルの壁が見えるだけです。

ですので、その窓は採光にもあまり機能していないのですが、カーテンが半端に開いていたので、Kさんはベッドに潜り込む前に一応閉めておこうとしたそうです。

そして、窓に近寄ってカーテンを閉めようとした、まさにその時――。





「人が落ちて来たんだよ」





真っ青な顔で、Kさんはそう云いました。

「え?」

当たり前の事ですが、僕は驚きました。


そのオフィスは、ビル10階以上の高さにあります。そこの窓から見えたということは、さらにその上から落ちたと云うこと。下はアスファルトですから、そんな高さから転落したら、改めて云うまでもなく確実に死んでしまうでしょう。

つまり隣のビルか、このビルから飛び降り自殺があったということなのでしょうか。それも、ついさっき…。だとしたら一大事です。


「飛び降り自殺ですか?ヤバイじゃないですか!」


僕が慌ててそう云うと、Kさんはかぶりを振って続けました。

「いや、おかしいんだよ。だって落ちていくのが妙に遅かったんだ。普通じゃない。ありゃ普通じゃないよ」


「それに」


Kさんはそこで一度言葉を切りました。





「目が合ったんだよ。


真っ逆様に落ちてくヤツと。


おかしいだろ?」






聞いた瞬間、僕は全身に鳥肌が立ちました。今、思い出しても背中が寒いです。


カーテンを閉めようと窓に近づいた時に、カーテンの隙間から、逆さまになった人間が落ちていくのを見てしまった…。

それだけでも腰を抜かしてしまいそうになるのに、その落ちていく人間と目が合ってしまったら…考えただけで、気が遠くなりそうです。


その後、Kさんはとにかく仮眠室には入りたくないといいますし、僕は僕でそんな話を聞いてしまったら、部屋の前にすら近寄れません。

結局、守衛さんにお願いして、そのまま2人とも応接セットで始発が動く時間まで仮眠をとらせてもらうことにしました。無論眠れませんでしたが。


ちなみに一緒にいた守衛さんも青い顔をして、Kさんの話を聞いていたのですが

「Kさんああいってましたけど、下、見ないでいいんですか?」

と、ごくごく当たり前のことを訊ねたところ



よくあるんですよ。あの部屋は。一応みておきますけどね」



と苦笑いされたのが、とどめとばかりに強烈でした――。


あのとき、Kさんより先に仮眠室に入らないでよかった…心底、今でもそう思います。

そしてそれ以来、僕は高層ビルに入っても、窓にはなるべく近づかないようにしています。だって、誰かと目があったりしたら……。





さて、これが僕の身の回りで起きた奇妙な話です。



皆さんには、こんな体験ありますか…?



是非、皆さんの体験談や、知っている話を聞かせてください…。


【リスペクト】今年もやります!怪談・怪奇体験スレッド【稲川淳二】



二日続けて、怖いの苦手なのに読んじゃった人
ホントにごめんなさい。

(いや、好きなんですよ怪談。怖がりなんですけどね)



その他の記事
-怪談スレッド設立記念 第一夜- 「高層団地 (Rewrite ver.)」
この記事の直前の記事です。
../2004/200406162253.html
’75年に生まれて。
この記事の直後の記事です。
../2004/200406200449.html