じーらぼ!言戯道場 (G-LABO Gengi-DOJO) 管理人:みやもと春九堂(しゅんきゅうどう)

【 2004年08月19日-03:55 のつぶやき】

夏休みの宿題。


僕の『ふるさと』は信州信濃です。


親父殿は高卒で田舎を出てきました。兼業農家の長男で、夜学に通いつつ公務員に。職場で母上と出会い、ごく普通の恋愛をして、ごく普通の結婚をして……そして二女一男を授かりました。

で、その一男が僕です(生まれてすみません)


というわけで、父の出身は信州信濃の山奥だったりします。家業は色々あったようですが、まぁ農家ってところなんでしょう。その割には亡くなった祖父は陸軍省だかどっかに勤めにいったりもしていたようですが、晩年は普通に農家をやっていました。

で、この「宮本家」は、本家でして、オマケに僕で実に十八代目という、なんとも長ったらしい経歴を持っています。

正確には5代か6代前の学者だった御先祖様は連れ合いがなく、途中で妹夫婦を養子にして継がせたりしているので、直系中の直系ではなくなっているのでしょうが、一応脈々とその系譜を継いでいるらしいのです。

ちなみに、この御先祖様は、それまでに蓄えた財を使い果たして身上を潰したりと、結構どうしようもない人だったようです、笑える(笑)。なんというか、学者であることを除けば、僕は間違いなく、この人の血が濃いんでしょうなあ(ダメ人間)


古い記録を辿ると、どうにも「豪農」とか「庄屋」とか呼ばれるような家だったらしく、今現在、祖母が一人住まいしている家は、今年で築280年という凄まじさ。無論手入れもしていますし増改築もしていますから「一番古い部分で」ということです。

信州という土地は、古くは武田vs上杉の決戦場になったりと、色々戦場になっているところですので、戦で功を立て姓を許されたらしい家紋付きの我が家には、それらしく鎧も長刀も脇差しも槍もあったりもします。

もっとも、長刀や槍の刃は、戦時中の金属類回収令(金属供出)で出してしまったのですが。火縄銃の台座だけ、なんてのもあったりしますね。


さて、そんな僕の『ふるさと』。親父殿は結婚してから埼玉に居を構えてしまいましたので、厳密にいえば僕の「実家」は、今住まっているところです。

ですが本籍を信州から動かさず、宮本家は生活をしていたりするわけでして、親父殿がそうであるように、僕も「長男の長男」。いわば、家督を相続する「内孫」の立場にいたりするわけです。

親父殿が引退後に、どのような生活をする心づもりなのかはわかりませんが、自分の生まれ育った故郷である信州の地を、それなりに大切にしてはいるようです。


というわけでして、僕もある程度以上、信州の土地に愛着を持っています。ガキの頃、それこそ物心着く前から信州には通い詰め、長い休みに入れば(または収穫の時期)なんかには、手伝いにもいったものです。

映画「となりのトトロ」に見られるような農村の風景を、僕は「さつき」であり「めい」である頃のリアルタイムで体験してきました。

小川で冷やしたもぎたてのトマトの味。塩も味噌もつけずにかぶりついたキュウリのみずみずしさ。虫取り網をもって走った蝉時雨の森。夕暮れ時の静けさに思わず怖気だって、わけもなく泣き出してしまった鎮守の社――。

無論、いい思い出ばかりではありません。75年生まれという、ある程度「現代っ子」であった僕にとっては、店もなければ娯楽もなく退屈で、夜は早く、朝はなおのこと早く、虫だらけで、ヘビもいたし、祖父は頑固で厳格で……そんな記憶も、たっぷりあります。

ですが、十数年前に祖父が亡くなって、田畑を人に貸す形で手放してしまった今、農作業を手伝いに行くこともなく、僕も大人になって「自分の予定」を優先させるようになったせいか、自然と田舎から足が遠のいてしまいました。

裏山の草刈りをしたり、お年始回りの挨拶をしたりといった事が何回かあった程度でしょうか。最後に行ったのは、祖母の米寿のお祝いをしたとき以来……とすると、既に四年前なんですよねぇ。しかもその時は家にいただけですから、村の中を廻ったりもしませんでした。

祖父もそこに眠る、先祖代々の墓には行くたびに一応顔を出してはいるのですが、急ぎの時は仏壇で済ませてしまうこともあったりと、最後にお参りにいったときの詳しい記憶がありません。


――子どもの頃は毎年帰っていたのに。

そんな風に思いながら、今年の夏も過ぎていくのかなぁと考えたのは六月末あたりのことだったでしょうか。

なんとなく、本当になんとなくそんなことを考えていたら、どういうわけだか田舎の風景を夢に見ました。


村の中でも小高い場所に立つ田舎の家。

小川から水を引いた用水路。

そこを辿った先にある大きな鳥居。


逆に進めば渓流を左手に山に入っていく。

その渓流の橋を渡れば確かそこは県道で。

坂になっていて……その先にはお墓があるんだ。

裏山から抜けた先にあった神社。

古ぼけて段数の多い石段。

お堂。

中には木製の馬がいたような…。

なんでそんなものを見たんだろう。

子どもの「ぼく」は怖くて…畏れ多くて、覗けなかったのに。


鳥居前の畑、あれは桃だ。あそこに行くには、あの家の裏を廻って。

ああ、いやだなぁ、あすこには吠える犬がいるんだ。

あぜ道は一輪車を押すのが大変で……。

夕焼けが綺麗だった。青い稲穂が、朱に染まる。

真っ赤に、まっ赤に、まっかに。


あの雲の色と同じ色のお爺ちゃんのタバコ。

帰りに買って帰らなくっちゃ。おつりでアイスを買おう。

どこかでツクツクホーシの鳴き声が聞こえて。


それから「ぼく」は宿題をやらなくっちゃと思って、夕陽を避けるように背を向けて駆け出し、「僕」は目を覚ましました。

たったそれだけのこと、本当にたったそれだけのことだったんです。だけどそれは妙に生々しい記憶で、その上忘れかけていた田舎の景色が、思いの外鮮明に蘇って。

それから僕は妙に、そわそわしてきてしまったのです。


そんなわけでして、姪っ子の有咲も生まれたことですので、祖母に写真を見せようなどと思いつつ、週末に田舎に帰ってみることにしました。

時期を外したような唐突の「帰省」ですが、夢に見たのも、お墓参りに来ない内孫を、おじいちゃんや御先祖様が、呼んだのかもしれません。

電話をすると、突然の話に祖母は驚いていましたが、出かける前に覚えている限り、そして夢に見て思い出した限りを、手書きの「地図」に起こして、昔のように「探検」気分で、お墓参りがてら見たい風景をみて、確認したいモノを確認してきたいと思います。


ひょっとしたら思い出せないような「忘れ物」があるかもしれません。それを探す短い短い「探検の旅」。


それが僕の今年の「夏休みの宿題」です。


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友達の友達の話[春九堂の場合#5:最終話 第4章]
この記事の直前の記事です。
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続・夏休みの宿題。
この記事の直後の記事です。
../2004/200408200257.html