■ 或る4月バカの覚え書き。

彼女とは、気のおけない友人同士、そのはずだった。

言い方は悪いけれど、こうみえて結構女好きな僕だから「性別を意識しない友人」なんてのは出来ないと思っていた。けれども彼女とはそういう関係だった。

かといって彼女が女性らしくないかといえばそんなことはない。どちらかといえば極めて女性らしい柔らかなラインをしているし、造形も性格も男勝りとかそういうわけでもないのだ。現に何度か僕の友人に彼女を紹介してくれ、なんて頼まれたこともある。

僕はそんな頼まれ事をされても断る理由もなかったし、彼女がフリーであることも知っていたから、彼女の了解をとっては紹介していた。そのうちの何人かとはデートをしたこともあるようなのだが、結局誰とも付き合うにはいたらなかったらしい。

彼女ももちろんそうだが、紹介した男の友人達も、僕にとっては大事な友達だ。紹介する、ということは男性としても、まぁそこそこ魅力的だろうと思っているからなのだけれども、それでも誰ともくっつかないというのは不思議といえば不思議だった。

「デートどうだったんだよ?」

そんなことを聞いてみたりもするのだけれど、誰もが苦笑いをして「あーダメだったわー」とだけしか応えない。僕なんかでも気兼ねなく付き合えているのに、あいつらがダメだなんて。「男女」を意識した途端になにかダメなことでもあるのかなぁなんて考えたりもしたものだ。


でもそんなことを何回か繰り返している内に、一人の友人とどうもうまくいきそうだということを彼女から伝えられた。

「最近彼の事が気になるんだよねー。いい人だし」なんて、少しはにかんだような顔で云う彼女を見て、僕は「そうかそうか、まぁ俺のダチだからな。ようやくヒットしたかぁ」なんて軽口を叩いてはみたものの、心の中はどういうわけか複雑だった。

自分で紹介した友人同士がカップルになるかもしれない。それは望んだことだし、いいことなのだろう。僕は彼女に対して恋愛感情を持っているわけではないのだし。

でも現実問題、彼女のはにかんだ笑顔を見て僕は胸が少し痛んだのだ。いや少しなんてもんじゃなかった。ギクっとなったような感じだったのだ。それは僕が今まで見たことのない彼女の“女”の顔だったから。


その日彼女と別れてから僕は何度も自問自答を繰り返した。一人会議といっても、あながち間違いではないほどに。

彼女が誰かのものになってしまうことが残念だったり悔しいのか?

彼女のことを今は女性として意識しているのか?

彼女のことを好きなのか?


最後の議題には、結局その日は答えはでなかった。その次の日も。そのまた次の日も。


結局何日も考え続けたけれど疑問に結論は出なかった。でも僕は一つの解決策――それは多分自分のその疑問に答えを出す為だけの、非道く自分勝手な――を考え出して、その日の夜、実行することにした。

年に一回だけ使えるエクスキューズを利用しての、それは最後の審判だった。いや、そんな恰好いいもんじゃあない。随分と後ろ向きで、バカバカしくなるほどに情けない臆病さをむき出しにした自己満足の行為。ただそれだけのことだ。


いつものバーに呼び出した彼女と、いつものようにバカ話をする。それはいつもの会話ペースだったし、何も代わりはしなかった。だけど店をでて終電の駅へと向かう道すがら、まだ少し吐息を白く染める彼女が、件の友人のことを口に出した時、僕は少し小走りに彼女の前に回り込むと、彼女を足止めするように真っ正面から見つめて、云った。


「紹介しておいて勝手だけど。やめろよ」

「お前が誰かと付き合うとか考えられないよ」

「俺と」


――飲み下した唾液が、バカみたいな音を喉で鳴らす。


「俺と付き合おうよ。俺、お前のこと、好きなんだよ」


最後の一言を云った時には、彼女の両肩を掴んでいた。逃がさないように。真っ正面から本気をぶつけた。年に一度のエクスキューズを利用した分、言葉には本気をのせたかった。


彼女は文字通りびっくりした顔で僕を見つめている。こんな表情も、正直今まで見たことがなかった。掴んでいた強張った肩から、ふと力が抜ける。それと同時に彼女は一つ息を吐くと、ゆっくり瞼を閉じて、再びゆっくりと今度は瞼を開けると、僕の目を真っ直ぐ見つめた。

その瞳の表情は「わかりきっていた結末」を読み取るには十分だったし、僕は彼女の言葉を待つまでもなかった。だから僕は彼女の肩を掴んでいた手を、ぱっと離すと、おどけたような表情を取り繕って彼女の肩を掌で、ぽんぽん、と二回叩いた。

途端に怪訝そうな表情を浮かべる彼女。僕はこの結末を怖れるだけだった自分の心を封じ込めて、用意していたセリフと芝居をすることにした。


「なんてな!」

「騙されんなよー。お前今日4月1日だぞ?」

「エイプリルフールだよ。エイプリルフール。まだギリギリ4月1日だよな?最後の最後でやってやったよ。絶対ひっかかると思ったんだ」

「ちょっと今マジに受け取ったろ?甘いよ甘い。こんな日に俺が何かしないわけないじゃん!」


上滑りはしなかった、そう思う。当たり前だけど予想は出来ていたことだし、だからこその“決行”だったのだから。準備していたセリフと芝居は、ちゃんとその場を繕うことが出来た。いや、そう思いこむことにした。だから彼女の瞳の表情の変化も見なかったことにした。

それは怒ったようなというよりは呆れたような――いや、今までの付き合いでは見たことがない、哀しさや他の色々な感情が入り交じったような、そんな表情だった。


その後のことは、実はよく覚えていない。これを書いている今もよくは思い出せない。ただ酔っていると云うことにして、非道く饒舌だったように思う。お互いの駅へと向かうホームへの分かれ道で、僕に手を振る彼女が、“あの時”に見せた表情を一瞬浮かべたような、そんな気もする。だけど僕はそれら全てを“忘れたこと”にした。それが一番楽で、一番臆病な解決法だった。


2005年4月1日、エイプリルフール。僕はいくつかの嘘をついた。一つは彼女に、一つは自分の気持ちに。

「騙しきれないウソならば、つくもんじゃない」昔誰かに云われたか、どこかで読んだかセリフ。その言葉の意味を噛み締めながら、僕は騙しきれなかった自分の気持ちに、今も躍起になってウソを塗り重ねている。





なんてことをやりたかったのですが
そんな相手がいないので出来ませんでした。

(ウソ1個も着けなかったよ…それどころか寝てないよ…)

(C) G-LABO Gengi-DOJO.