■ 日曜の夜。押入の中。僕は彼女の声に耳を傾けていた。

僕はオタクだった。

いや今でもオタクだと思うのだけど、現在進行形の彼らがこぞって肯定する「げんしけん」や「NHKへようこそ!」あたりが全く理解できない上に吐き気がするほどつまらなく感じるので、多分そう自称するには無理があるのだと思う。

ヤンキーを少々経験し、親を泣かせ、先輩の言葉に感化されて受験期を乗り越え、普通の県立進学高校に進学した僕は、入学にあわせてボンタンやドカンを脱ぎ捨てた。そしてオタクの道へ堕ちた。

まぁどれくらいのオタクだったかというと、所持するエロゲーは軽く3桁後半から4桁に入るくらいになり、家はバックアップのFDで溢れかえった程度。アニメなら気に入ったアニメもそうでないアニメも友人達と分担してとりあえず全録。その為にデッキは2台、しかもS-VHSを用意する程度。ラジオなら毎週バイト中の店内ですら流し、イベントには必ず応募、声優ライブにもあしげく通う程度――という感じだったのだ。


で、話はラジオに戻る。オタクのラジオといえばAMなのだが、時にはFMも聞くことがあった。一応音楽の方もチェックしていたのだ。そして出会ったのがBayFMの「エナジーカッツ」。そしてそのパーソナリティ、TAMTAMのMariさんだった。

声優オタでもあった僕は、彼女の声の可愛さにまず脳天をぶち抜かれた。声優じゃないことが信じられなかったくらいだ(オタ的発想)。そして彼女の歌声にも惹かれた。

ドラマ「南くんの恋人」主題歌に使われた高橋由美子の「友達でいいから」という曲。それを提供したのがTAMTAMだと知ってからは、完全に傾いた。気が付けばファーストアルバムを購入するほどに。

ほどなく「エナジーカッツ」は放送を終了してしまうが、手元には彼女の歌声が詰まったCDが残った。最終回の彼女の挨拶は心に染みて、押入を寝床にしていた僕は一人で涙を流したりもしたモノだ。我ながら若かった。


先日アクダマのアジさんとメッセンジャーで他愛もない話をしていたところ、唐突にこのTAMTAMのことを思い出した。そして無性にMariさんの歌声を聞きたくなった。しかし、なにしろ10年以上前のCDだ。引っ越しもしたわけで、どこにあるかはわからない。その時は結局聞けずじまいだった。

そして翌日、別の用事で押入を漁っていたところ、TAMTAMのファーストアルバムが出てきた。しかしケースだけ(笑)。喜びから崩れ落ちる瞬間、人間は見境をなくす。数分後、気が付けば楽天フリマで同アルバムを購入している僕がいた。


というわけで、現在僕の手元にはTAMTAMのファーストアルバム「とわとわ」がある。さっきから聴き狂っているわけだが、青春時代の思い出がさまざま甦って、実に不思議な気分だ。押入を寝床にしていた時代の記憶。まどろみのような温もりと、エロ本を枕の下に敷いていた青臭い記憶。


というわけで、突然ですが「とわとわ」をレビューです。全曲レビューすると膨大な文字数になるので、ピックアップね。


1.恋人じゃない
TAMTAMの曲はポップビートに乗せてパーカッションが実に効果的に使われていることだ。とにかく普通のドラムやらシンセサイザーやらを使わない。パーカッションでの生音録音にここまでこだわっていたアーティストはJ-POPでは他に見あたらないほどだ。

「恋人じゃない」は、男女の微妙な距離に差し掛かった、幼なじみの男女の想いを、女の子側の視点から切々と歌い上げた曲だ。歌い出しの「マブダチだぜ、俺たちは」という男の子のセリフフレーズが、既に“90年代している”感じで、実に好ましい。

独白だけあって、かなり大胆な表現が多いのだが、それを大らかに切なく、それでいてポップに歌い上げるのはMariの声質によるところが大きいだろう。中盤の「彼女にだけする私の知らない特別なことをして欲しい。今すぐ」という歌詞は、かなり来ている。Mariの歌詞は割と倒置法が多用されているのも特徴だ。アルバムのオープニングに持ってくるにはベストの曲だと思う。


2.うっふっふ
打って変わって、少々オリエンタルチックなスロウポップ。「可愛らしい歌」とはこういう曲をいうのだろう。これもまたパーカッションが効いている。うきうきとした恋をしている自分を歌い上げる。音節毎に表情をつけたりする遊びが楽しい。Mariの“声芸”が活かされた曲。恋愛中に聞いて欲しい。


5.でもさ
アコースティックライブで聞きたい曲。デートの待ち合わせで時計とにらめっこする恋愛初心者の「ぼく」を歌った曲。パーカッションがとにかくあたたかい。春の陽気に誘われてデートするときのBGM。

歌詞が背伸びしているのがまたいい。「日帰り出来ない、ちょっと遠目のデート。頷いた時から冒険ははじまってる」なんて、大人からはちょっと書けないフレーズだ。待ち合わせに彼女は来たのかな…最後の「来る来ない・来る来ない・来る来ない…?」っていう声の表情が、なんとも可愛らしい。

恋愛している時の男の子は、こんなにも可愛らしいんだぜ。


6.友達でいいから
高橋由美子は頑張って歌ったと思う。だけどこの曲はTAMTAMのMariが歌ってこそホンモノだと思わされる。Mariの歌い描く「ぼく」は、限りなく優しく、あたたかく、そして泣き虫だ。伸びた時の涙を堪えるようなMariのビブラートが涙を誘う。

道化でいい、友達でいい。君がそばにいてくれるだけで。勇気を出せずに、ただ見守るだけでいい。それでもそばにいたい。踏み出せなかった一歩。だけど彼女にとって必要な存在であればいい。そんな臆病で優しくて切ない恋心が、この歌にはある。

「君にしてあげられること、指折り数えてみた。けれどまだ片手にさえ足りないくらい」なんて切ない歌詞だ。

秋から本格的な冬に差し掛かる頃、白い息を弾ませて、電話の向こうの彼女の泣き声を助けに行く。それは「ぼく」にしか出来ないこと。彼女がぼくを望んでくれるなら、凍てつく真夜中の空気の中を、自転車をこぎ続ける。そんなシーンが頭に浮かぶ。まだ学生服が似合うような恋愛の歌。


ぬぬぬ。結局全曲書きかねないので、とりあえずこれで終わり。まぁ機会があったら聞いて下さい。多分レンタルCDとかにはおいてあるとおもう。純愛過ぎるほど純愛な音楽もたまにはいいもんだ。青臭すぎる曲がまたよいのですよ。

ちなみにTAMTAMは今も活動中らしい。2003年のワンマンライブレポートをブログに書いている人がいた。なんかそれ(今も活動していること)を知って昔の恋人に再会したような不思議な気持ちになったのだが、さりとてライブに行きたいとは思わないから、それはそれで不思議。

それにしても、改めてレビュー文章にして思い返したのだけれど、こんな音楽を聴いていた時期もあったのだなぁと、当時の自分を思って、少し苦笑いしてしまった。

まぁ音楽には色々な聴き方、受け入れ方というものがあって、多くの人は曲や歌詞の内容に自分を投影するのだろうけれど



僕の場合は主にエロゲーに登場する
女の子達のイメージ曲として
聴いていたことは、ナイショの方向で。

(台無し)

(C) G-LABO Gengi-DOJO.