■ 窓口嬢、陵辱。

先日、某先生から仕送られてくる小切手を換金しに都内の某外資系(?)銀行へと僕は出向いた。

この銀行はなんというか、如何にもセレブ臭が漂うイヤゾーンである。そもそも複合ビルの9階にあるあたりから気に入らないし、青い絨毯フロアなのも気に入らない。

自動ドアをくぐると同時に嗅覚を刺激する、如何にも「脱臭してます」気味な臭いも気に入らなければ、一番最初に目に入る受付の女や警備員も気に入らない。奥にゴールドメンバー専用の窓口があったりするのも気に入らない。とにかく気に入らないことだらけなのだ。

僕がこの銀行に預けてある金額は、全ての預金者と比べてみてもミニマムであろうことは疑いない。一応外貨仕立てで数千ドルはあるのだが、この金持ち臭漂う空間の中では、その程度の金額は端金なのだ。きっとビバリーヒルズあたりじゃあ犬の餌も買えないに違いない。

そんな貧乏人が、こ汚い格好でやってきて、小切手の換金を強請りに来ている。手続きにかかる時間は数千万・数億の入金手続きと代わらないだろうが、扱う金額は比べものにならない。しかも海外小切手は換金するのに米本土に郵送という手続きをとらなければならないので、実際は単なる入金手続きよりも面倒そうである。

つまりこの時点で、僕は相当嫌な客になっているはずなのだ。決して僕が自分を卑下しているが故に被害者ぶっている意識が高いわけではない。なんともいえないアウェイなムードが、この銀行のそこかしこから漂ってきているのだ。

大体他の客すらも気に入らないのだ。貧乏人が入ってきたから「珍しいモノを見た」とでも云う様に観察しているのだろう。僕が待合い席に座れば連中は黙りこくる。だが僕が姿を消せば途端に語尾に「ザマス」を着けて会話を交わし始めるに違いないのだ。

会話の内容は勿論僕をバカにするものだ。いや彼らは別に僕をバカにしているつもりはないのだろう、ただ自分たちとは違う生き物について論評を加えているだけなのだ。

「驚いたね、二本足で歩いていたよ」「それどころか服を着ていたザマス」「よく聴き取れなかったのだが、あれは日本語じゃないかね?」「信じられないな…」などの会話だ。全く持って度し難い。ここでは僕は人間扱いすらしてもらえていないのだ。

そんなアウェイ度MAXな空間であっても、貧乏人としては数百ドルの小切手を換金する機会を失うわけにはいかない。その金が明日のゴハンに変わる、即ち生命線の維持なのだ。耐え難きを耐え忍び難きを忍んで、窓口に呼び出されるのを待つ。救貧院でお貴族様から賜ったスープを待つ浮浪者の気分だ。

窓口に呼ばれると、この窓口を担当する小娘がまた気にくわない。なんだそのグラデーションのかかった髪の色は。くるくるくるくるとスパイラルのように緩やかなカール。そのくせ一点も非の打ち所がない。まるで「今、美容院にいってきましたの」たとでも云うかのようなセットだ。

メイクも完璧。濃紅のルージュが映えるが、決して下卑た構成にはならない。書類にペンを走らせる為に僕が身を乗り出すと、ほんのわずかにだけ香る匂いは高級香水のそれだ。金だ、金のニオイがする。紙幣を絞って抽出した液体を全身に振りまいたかの様な匂いがする。そんな完璧さなのだ。

服装だってそうだ。完璧の上に完璧を重ねている。これが外資の窓口に立つ女の見本だとでもいうようなスタイル。僕の様な貧乏人相手には顔には営業用の笑みの一つも浮かべない。自分が優秀な「キャリア」の道を歩いている自信に満ちあふれ、瞼は常に半開き、口元には余裕を浮かべ――そして、僕を見下す。

耐え難い屈辱。アウェイ感マキシマムゾーンであるこの銀行の中でも、ここは最もアウェイ濃度の高いエリアだ。書類に自分の名を書く。それだけでも全身から脂汗が吹き出そうになるほど苦しい。僕がそんな苦痛に身を焼いているにも関わらず、この窓口の女は貧乏人の書く拙い文字をじっと見ているのだ。

書面に視点をおいているので女の表情は見えない。だが僕の書く文字を見ている女は、きっと屠殺所のブタを見るよりも冷たく、そして侮蔑的な表情をしているに違いないのだ。少なくとも人間を見る目ではない。改めて自覚させられる。そう、ここでの僕は人間ではないのだ。

書類を渡すと僕の手指が触れたところより一番遠いところを、まるで汚染されたモノを触るかの様に摘んで受け取る。手袋があればしていただろう。マスクがあれば着けていただろう。防護服があれば着用し、そして銃があれば僕を射殺しただろう。この女はそういう女だ。

視線も合わさずに淡々と女は作業を続けつつ説明をする。マニュアルの暗唱。「どうせ聞いたところで人間の言葉なんてわからないでしょ」。女の口から放たれる音は言葉以外のところで僕にそう語りかける。いや投げつけているだけだ。言葉の通じぬ動物に対して、ため息を混じりの叱責を繰り返す様に。

そしてここに来て僕の羞恥心と侮辱を重ねられて澱んだ心は限界を迎える。

ああ、もしも許されるならば、僕はこの場で武器を取り出し、このフロア全ての動く者を破壊するだろう。そしてカウンターを乗り越え、ついさっきまで僕を侮蔑していた女を僕の知りうる言葉の全てで罵倒する。

限界まで見開いた目を充血させて、あらん限りの大声で罵倒するのだ。衝動だけが先走って言葉にならないこともあるだろう。意味を成さない言葉を吐き出すだろう。「口角沫を飛ばす」などというが、まさにその状態だ。言葉と共に女に向かって吐き出される唾液の飛沫。それを思う存分に吐きかけてやるのだ。

狂気と凶器を突きつけられ、怯えきって動けなくなった女は失禁すらするだろう。完璧の上に完璧を重ねていた存在が一気に壊れる瞬間。快感が僕を満たしはじめる。破壊的衝動に捕らわれた僕は女に迫る。女が身につけている完璧を穢れた僕の手で全て引き裂き、そして命令するのだ。



――僕を詰れ。僕を罵倒しろ。僕を踏め。素足で僕の顔を踏むんだ。



自分の妄想の結末に驚き、身震いして現実に意識を戻す。激しい動悸とじわりとした発汗の感覚。まるで淫夢を見た朝の様だ。現実は何も破壊されてはいない。ここは金持ちの為の空間であり、僕はそこに紛れ込んだ貧乏人という名の異分子なのだ。

窓口の女は手続き控えを僕に渡すと軽く頭を下げる。それはこの空間から解放される合図。僕は窓口から離れると脇目もふらず出口を目指した。自動ドアが背後で閉まると、空気が遮断されて僕は日常の空間に戻ることが出来た。

強化ガラスで仕切られた空間の向こう側では、おそらく僕に対する論評がはじまっているのだろう。窓口の女は席を立ち、うがいと手洗いを繰り返すのだろう。

僕は精神的苦痛と屈辱の中で、そんな妄想をしながらエレベーターホールを目指した。

またこの場所に来ることを愉しみにしながら。





えーと、何が云いたいかといいますと
某銀行の窓口のおねーさんが
キャリア系Sっぽくて、
僕の「この人ドSですレーダー」
びんびんに反応して、かなり好みだったとかそういう話です。

(陵辱されたのは僕(しかも妄想)というわけで)

(C) G-LABO Gengi-DOJO.