■ 夢記憶創作・白い部屋の別件。 -2-

わかったことがいくつかあった。

トイレには行ける。シャワーも浴びることが出来る。食料の心配もないようだ。

というのも、この白い部屋は見たままの広さしかないようなのだ。つまりおよそ6畳程度。ベッドと僕の足をつないでいるワイヤーは2・3メートルどころか4メートルくらいはあるようだ。

ベッドのすぐ側に見えたドアの向こうにはユニットバスがあった。そこにはギリギリ辿り着けたし、用も足せた。なんとかシャワーも浴びることが出来るようだ。コックを捻るとしっかり水が出た。


壁と一体化しているかのようなクローゼットをあけると、タオルやら着替えやらが入っていた。辛くなったのはどれもこれも「白いシルクのパジャマ」だということ。

そして参ったのは、下着がブリーフだったことだ。ブリーフというかビキニというか、こんなパンツは履いたことがない。ちなみに今はいているのは寝る前にシャワーを浴びた時に履き替えたトランクスだった。どうやら貞操の危機とかそういうのはなかったようだ。

クローゼットの中には、他にも乾パンやらカロリーメイトやらの保存食が大量においてあった。缶詰もある。笑ったのは米軍のレーションがあったことだ。こんなもんどこから手に入れたのだろうか。

各種ビタミンのタブレットもあった。コンビニやお手軽薬局などで見慣れたメーカーのものだ。水もある、瓶詰めのものだ。

部屋の中の気温は23℃くらいだろうか。涼しくもなく暑くもない。いや熱帯夜が続いていた昨日までの自分の部屋に比べれば、むしろ過ごしやすいくらいだ。これならこの食べ物や飲み物が腐るようなことはないと思う。


じーっと耳をすませていると、どこからかモーターの音が聞こえる。エアコンの駆動音だろう。つまり、エアコンの室外機がどこかそんなに離れていないところにあるということだ。

そう、この部屋にはエアコンがある。ビジネスホテルなんかで見る全館タイプのアレだ。ベッドから一番離れたドアの真上にエアコンが設置されていて、そこから調整された空気が流れ出て来ているようだ。


一番離れたドア、とはいったものの、この部屋にはドアは2つしかない。一つはその離れたドア。そして一つはユニットバスルームに通じているドアだ。あとはクローゼットがあるだけで、窓もない。

で、一番離れたドアにはワイヤーがあるので、届かない。途中から匍匐前進をして、全身を伸ばしてかなり頑張ってみたのだけれども、無理だった。ドアに触れることも出来ないし、ましてやドアノブに手を掛けることも出来ない。

いや、歩いていった時に無理だと悟ったのだけれども、一応試してみるべきだと思ったのだ。匍匐前進している僕の姿は相当バカっぽかったろう。もし仮にこの白い部屋に監視カメラがついていて、そんなところを見られていたとしたら僕は自害して果てるつもりだ。


ちなみにユニットバスルームも部屋と同じく窓はなかった。天井に換気扇のものらしき穴があいているのだけれど、勿論人間が入れる大きさじゃあない。

部屋の床はといえば、白い絨毯マットが敷き詰めてある簡素なものだ。壁も白いしドアも白い。クローゼットも白い上に、床まで白いというのはかなりいただけない。


――精神病院の隔離部屋ってこんな感じなのかなぁ。


なんて、余計な事まで考えてみたりもした。


つまりはこう、なんというか、暇なのだ。緊張感がないと自分でも思う。でも、どうやら危機的な状況ではなさそうなのだ。

何の因果か知らないけれども、とにかく僕は今監禁されている。しかもその監禁されるまでの過程を覚えていないというか知らないというか、そんな感じだ。

じゃあってんで、暴れたり何度も不安に陥ってみたりしたところで、いや実際そうしてみたりもしたんだけれども、時計もないこの部屋ではなにも変わらないのだ。


そこで部屋の中を探検してみたのだけれども、ワイヤーは外れそうにないし、あんまり頑張ると足首に食い込んで痛かったし、トイレにも行けるしシャワーも浴びられるし、食料品も着替えも困ることはないようなのだ。

ここまで至れり尽くせりだとかえって不安にもなるのだが、それも通り過ぎてしまった。食料品や飲料水に毒物が混入されていることも考えたのだけれども、さしあたって空腹でもないので、それも考えないことにした。


――(多分)さらわれて、(多分)監禁されていて。


その先にあるものを色々想像してみる。家族に身代金の要求?実家にそんなに金はないしなあ。不動産の立ち退きやらそういうのにも縁がなさそうだ。僕の命が目的?だとしたら、こんな好待遇(?)にする必要がない。


――するってーと他には……。


色々、ああでもないこうでもないと考えていると、一番離れたドアから音が聞こえた。その瞬間考えたのは「ああ、あのドアは木製なんだ」ということ。

つまり「その音」は、ちょっと堅めのモノで木製のドアを叩く音。そう俗に言う「ノック」というヤツだったのだ。

監禁されているとはいえ自分の部屋ではないのだから「どうぞ!」というのもおかしいし、どうしたものか――そう思うのと同時に「僕を誘拐して監禁したヤツが来たのかも知れない」とも考え、僕はベッドから両足を降ろして立ち上がると、何故か布団を抱えて身構えて、ドアを見据えた。


――はい、入ってますよ。


なんだ、随分余裕あるじゃん――口に出したセリフを自嘲しながらも、僕の膝は少し笑っていた。


<気が向いたら続>

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