■ 新春連続更新2 霊的なお話 -3-

【第1回】http://g-labo.pro/log/2005/200501011841.html
【第2回】http://g-labo.pro/log/2005/200501042335.html

普通ならば、そこで怖くなってやめるか、興醒めしてやめるか、そのいずれかの選択をするような出来事だったのでしょう。

それにあまりにもクラス中で流行っていることや、そういう諍い的なことも考えての事でしょうが、担任の教師から「今後『星の王子様』は禁止にします」というような話もあったりして、いくらでも離れていくべき材料もあったのです。

ですが、僕らのグループは離れるどころか、よりのめりこんでいきました。それは祟られたというグループと対立していたグループ、そしてそれらを第三者的立場から見ているグループだったからかもしれません。


僕らは学校での『星の王子様』が禁止されると、その場所を放課後の市立図書館へと移しました。


――先生や大人達は、この状況がわかっていない。呼び出さなければ済むという問題じゃないんだ。なんとかしないといけない。最後までちゃんとやらないといけないんだ。


僕たちは、そんな使命感に駆られていたんです。


今の年齢になって客観的にみれば、そのときのクラス内は明らかに集団ヒステリーの状態にありました。先生や親から禁止されたということは、それだけで「子供の遊び」の領域を脱してしまい、「本当に危ないこと」なのだという認識にしか結びつかないからです。

現代に至っても「おはらい」や「おきよめ」があること、科学研究所を建てる時さえ、地鎮祭を執り行うこと、これらは謎や恐怖をそのままにせず、成り行きのその方法の延長線上で解決する。それこそが最大の解決であり、それを乗り越えることで克服する。理由付けをして解決し、安心する。

つまり心霊関係を信じる信じないという意味だけではない「憑き物を落とす」行為。僕らの行動は、まさにそれであり、子供ながらに、いや子供だからこその判断ですが、決して間違いではなかったと思います。


市立図書館の読書スペースの一角が、それから僕らのたまり場になりました。念のため、みんな清め塩やら、魔除けのお守りやら、中には護符や御札やら、経文を持ってくるヤツもいました。子供なりに、自分たちを守る術を考えるだけ考えたのです。

そして呼び出していい番号の星の王子様を呼び出しては、なぜこのようなことになったのか、そして祟っている王子様は具体的になんなのか、どうすればよいのかという対策などを聞き出してはメモをとり、相談しました。

呼び出していい星の王子様も、人間関係(?)や力関係があるようで、7番目の王子様などの「善い」王子様たちが、4番目の「悪い」王子様を抑え込んでいるはずだったのが、7番目を何人もが呼び出すので、その間に4番目が抜け出して、彼らのグループに召喚されているのだということ、そして一度取り憑かれると、なかなか祓うのが難しいとのことなどがわかってきました。

そして対策としては、全ての王子様達から4番目の王子様の「名前」と「正体」を聞き出し、そして祓うしかない――そういう結論が出たのです。

しかしその為には他の2番目や9番目の「呼び出してはいけない」王子様も呼び出さなくてはいけない、そんなことをして大丈夫なのかという事なども、もちろん話題にあがりました。

すると7番目の星の王子様や1番目の星の王子様達は、僕らに好意的というか味方をしてくれているらしく、グループのメンバーそれぞれが「守護霊が守ってくれているから大丈夫」というようなメッセージを出してくれました。


王子様達を呼び出す役の二人は、大体同じ女子だったのですが、彼女たち二人が「お話」を考えていたにしては、話はあまりにもふくらみ過ぎました。第一他にも何人かが一緒になってやっていたわけですから、統一性のある話が出来上がるわけもありません。

そしてこの「それぞれの守護霊」の話題になったときに、実に不思議な出来事が起きたのです。これまでの長い前置きは、全てこの出来事の不思議さを伝える為の舞台装置でしかありません。

ここまでの状況が大体読み取れている皆さんは、集団催眠状態や集団ヒステリーという言葉や、呼び出し役の女の子の創作という事で片づけられると思われることでしょう。事実、それまでのことはその通りだったかもしれません。

ですが、このときの不思議さは、ちょっと不可解でした。


「それぞれの守護霊」という言葉が出たとき、僕らは色めき立ちました。コックリさんもどきをやっているくらいですから、そうした物事には至極敏感ですし興味もあります。どんな守護霊がついているのか、皆気になるわけです。

まず呼び出し役の女の子二人には、それぞれ亡くなった親類や御先祖が守護しているという話になり、非常に強く守られているので心配がないというお告げが出ました。他のメンバーも大概は亡くなった祖父祖母や御先祖で、僕も先年の春に亡くなった父方の祖父と、遠い御先祖がしっかり守護してくれているとのことでした。

実は、このときから少し不思議ではあったのです。というのも呼び出し役の子と僕は同じグループにはいたものの、さほど仲が良かったわけではなく、父方の祖父が亡くなっているということを知っているとは思えなかったのです。しかも一人は6年生の春に転入してきた子でしたから、余計に知るわけもありません。

ですが、彼女らが呼び出した王子様は、正確に「お・じ・い・さ・ん/それは母方ですか?/いいえ/父方ですか?/はい」と、鉛筆を這わせたのです。他に近しい親戚や祖父祖母が守護していると告げられたメンバー達も、不思議に思ったかもしれません。しかし僕たちは、「お告げ」を疑っている立場なら、微妙に説明がつかないこの状況をすっかり受け入れていました。

そしてもう一人、その年に転入してきた女の子、一応仮名にしておきますが、西岡理恵さんの守護霊の話になったときに、その不思議さはいっそう増したのです。


王子様の「お告げ」は五十音を正確に「お・と・う・さ・ん」となぞりました。それを見た僕は「なんでお父さんなんだろう?」と思ったのです。まだ子どもで、母子家庭という存在を身近にしたことがなかったので、普通に疑問に思ってしまったのです。

ですが西岡さんは、その「お告げ」を見て突然泣き出したのです。そして「お父さん、お父さん」としゃくり上げながら繰り返し、それから一昨年前にお父さんを亡くしていることを話したのです。これには全員驚き、そして呼び出し役の二人の子も、驚いた顔をしていました。

当時のクラスメイトの付き合いレベルでは、よっぽど仲が良くてお互いの家を行き来するほどでなければ、家庭環境を知ることなどありませんでした。それに西岡さんは転入生ですから、この「星の王子様」という機会で、ようやくうち解け始めていたような、そんな状態だったので、なおさらにそんな家庭環境のことを知ることもなかったのです。


不思議な興奮が場を包み込んで、もらい泣きをしている女の子もいる中、誰かが「西岡さん、お父さんと話せないかな」というような事を言い出しました。その頃には、呼び出した王子様に、何番目の王子様と変わってもらう、とかそういうことまでコントロール出来るようになっていたのです。

そこで呼び出し役の子が、「西岡さんのお父さんに、この紙と鉛筆に降りてきてもらうことは出来ますか?」と聞くと、鉛筆は「はい」を丁寧に包み、それから☆印の中央に戻りました。

そして、しばらくの沈黙の後で「西岡さんのお父さん、いらっしゃっていますか?いらっしゃっているなら、はいを、違うならいいえを囲んでください」と尋ねると、二人の呼び出し役の子が握った鉛筆はゆっくりと紙の上を動き始め、「はい」を囲み、☆印の中央に戻ります。

続いて「来てくださってありがとうございます。あなたが西岡さんのお父さんでしたら、西岡さんに何か伝えたいことがありますか?」と問うと、再び「はい」へと鉛筆が動き、そして二度繰り返して○で囲んだのです。

全員が固唾を飲んで見守り、泣きやみ少し落ち着いた様子の西岡さんもじっと見つめる中、鉛筆はぎこちなく五十音表を動きました。


「い・つ・も・み・ま・も・っ・て・い・る・か・ら」


「ま・ま・と・な・か・よ・く・ね」


ここまでは非常にありきたりなメッセージですし、仮に呼び出し役の子が動かしていたとしても、思いつくレベルの内容でした。ですが引き続き


「げ・ん・き・で・い・て・ね」


と囲み、最後に



「り・っ・ち・ゃ・ん」



と囲んでから、鉛筆はゆっくりと☆印の中央に戻りました。

そしてそれを見て西岡さんは再び泣き出したのです。そして泣きながら「お父さんだよ、本当に、間違いない。だってお父さんしか私のこと『りっちゃん』って呼ばないもん」と云いました。

それを聞いた僕らは一様に驚きました。西岡さんの名前は「理恵」であり「りっちゃん」という呼び名は、あまり一般的ではありません。「りえちゃん」や「りえ」といったところが一般的な呼び名ではないでしょうか。

もちろん前述したとおり、「西岡理恵」さんという名前は仮名ですから、実際はもう少し違う名前で「普通そうは呼ばないだろう」という呼び方で最後を結んだわけなのですが、いずれにせよ西岡さんの亡くなったお父さんが彼女を呼ぶ際の呼び方で、他にその呼び方をする人はいないということだったのです。

他にもお母さんの事を「まま」と表現したりと、偶然にしてはあまりにも符号する点が多く、ましてやグループの誰も西岡さんのお父さん・お母さんに会ったことはないし、家に遊びに行ったこともなく、女子同士も「りえちゃん」と呼んでいましたから、まさに「ありえない」出来事だったのです。

この不思議に奇妙な出来事に、僕らは驚き、そしてもらい泣きなのかムードにおされたのか、その場にいた誰もが涙を流しました。そしてあたたかい気持ちになって、西岡さんに「よかったね」と繰り返しました――。


集団催眠や集団ヒステリーという言葉で表すにしても、納得のいかない奇妙な空間が、確かにあの瞬間にはありました。

ひょっとしたら何十回、いや百回以上かもしれないほど繰り返した『星の王子様』という一種の降霊術の中で、あのときだけ「本物」が降りてきたのかもしれません。そんな風に思えるほどに。


もちろん西岡さんがお父さんを亡くしていて母子家庭であるということも、「家族にはりっちゃんて呼ばれてるの」という言葉を聞き出したりしていたのではないかということも、疑ってかかればキリがありません。

ですが当時の僕が知る限り、そんな事実はありませんでしたし、今考えてもあの瞬間だけは説明がつかない不可思議な出来事として記憶されているのです。

もちろん、そうしておいた方が何となく素敵だから、という単純な気持ちが作用していることは否めませんが――。


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