|
■ 日曜日のシー者。
これは、とある人物が携帯電話から投稿更新した、とあるソーシャルネットワークサービスサイトにおける日曜早朝の実況記事である。なおプライバシー保護を配慮し、個人を特定できる記事の一部には保護処理を加えてあることをご了承の上、読み進めていただきたい。
――――――――――――――― 【み○もと春○堂さんの日記−2005年05月29日07:16】
オールして始発近くの電車で地元に帰り、現在バスを待っています。
ちなみに次のバスは7時25分。自宅最寄バス停までは290円かかります。
財布の中身は438円。そして現在進行形でトイレに行きたくてしかたありません。
かなり色々な意味で極まってきている状況ですが、本日は〆切りであり、またプロレス観戦ツアーオフ開催日でもあります。
なんかこう、かなりの勢いで「どうしよう」という台詞があたまの中を回っています。大丈夫か自分。
せめて漏らしませんように。 ―――――――――――――――
記事が投稿された時間と本文中のバスの発車予定時刻から想像するに、筆者はバス待ちの暇な時間を潰す為に、この記事を書き始めたモノと思われる。オールナイトで出かけていたとあるので、帰路の電車内では眠っていたか、いずれにしてもこの段階ではかなり朦朧としていたに違いない。現状の確認と本日の予定などに終始しており、また書いている途中で不意の便意、おそらく広く世間一般で云うところの「朝一番」の気配に気づいているようだ。
意識明瞭であれば、駅構内のトイレで済ませて来たであろう行為を果たせず、さりとて戻るにはバスの時間が心配という、やや切羽詰まった状況が感じられるも、まだ余裕が見られる。
――――――――――――――― 【みや○と春九○さんの日記−2005年05月29日07:25】
バス来た。乗った。女子高生らしき集団が乗り込んで来た。どこかのバドミントン部みたいだ。遠征かな。しかし車内の臭いがひどい。コイツら一斉にメシ食いはじめやがった。出発待ちの車内はガキコスメやシャンプーだかリンスだかの臭いと食べ物の臭いが混ざっています。やばいやばい、どちらか一方ならいいのに!混ぜるな!混ぜるなよ!混ぜるな危険だよ!
さてバス出発。 ―――――――――――――――
この記事では、周囲の状況を観察、そして推理までしており、意識がかなり明瞭になってきていることがうかがい知れる。さらにいえば嗅覚刺激について言及している通り、身体の感覚自体もかなり覚醒しているようだ。つまり身体活動が活発化している状態であり、それは無論生理現象の方にも影響を及ぼす。
しかしこの時点では、まだその危機に本人は気づいていない様子だ。いやひょっとしたら、やや気づき始めていたのかもしれない。バスが出発したというだけの短文を末尾に持ってくるあたりに、「あーあ…発車しちまった…我慢できるのかなぁ…」という心境が微妙に読み取れないこともない。
――――――――――――――― 【○やもと○九堂さんの日記−2005年05月29日07:30】
やばい、漏らしそう。今この車内にいる女子高生達の誰ひとりとして、まさか最後尾の席にいるクマが、おしっこを我慢しているとは夢にも思ってはいないだろう。少女達よ!これが「オトナの世界」だ!
やばい、もうかなり内股モード。 ―――――――――――――――
そして直前の記事から五分後には既に身体が完全に覚醒している様だ。冒頭から既に危機的状況をアピールしている。そしてあまり意識を集中し過ぎると、かえって便意が高まるので、あまりその事自体を考えずに意識を散らすということを人間は行う。その為か所在なく周囲を見回している様子も窺い知ることが出来、また自分と自分の置かれている状況を客観視することからも、その事が裏付けられるといっても過言ではないだろう。
本文内容に関しては理解不能極まりなく、ひたすら混乱していることだけが目立つ。言葉を選ばず、ダイレクトに「便」を表すワードを使用しているあたり、パニックの果てに幼児退行している可能性すら考えられる。
――――――――――――――― 【みやも○春九堂○んの日記−2005年05月29日07:52】
あ…っ。 ―――――――――――――――
前回の記事から22分が経過しての最後の実況記事は、上記のものだけだった。直前の記事からの22分間は、想像するだに地獄のような時間帯だったに違いないことは窺い知ることが出来る。この小さく短い「悲鳴」ともとれる記事からは、「堤防決壊」「暴発」などのキーワード及び事象が容易に想像されるが、仮にそんな状況になっていたとしたら、こんな記事を投稿する余裕などないだろう。
しかし「あっ…。」という表記が通常本則であるのに対し、本文は「あ…っ。」となっている。この3点リーダー(「…」)の配置が演出的な意図の元になされたものならば、冷静な精神状態であると思われるが、これまでの筆者の文章に見られるクセからも、どうやらその可能性は低いと思わざるを得ない。
以上の事より、次の状況が推察出来る。
・「全開に暴発」はしていない。 ・しかし冷静と言い切れる精神状態ではない。 ・尿意を感じてより32分が経過。 ・振動という尿意の天敵をもたらすバスに搭乗してより27分が経過。
これらの状況を総合して推理するに、尿意の我慢の限界を来たしていた事は紛れもない真実でありながらも、全開失禁はしていないという前提条件から、ちょっとしたショックで微量の失禁(尿漏れ)、通俗的表現でいうところの「ちょい漏れ(choi-morrey)」、80年代に表現されたところの「チビり」という状態になってのではないかと思われる。
いずれにしても、この実況記事が投稿更新された後、関係者からフタケタに達する筆者の状況確認を希望するコメントが寄せられるも、筆者は一切のコメントをも発しておらず、その後も関係記事はおろか、新規の記事も投稿更新していないことから、真実は筆者本人のみが知る闇へと葬られてしまったようだ。
独自の調査によれば、筆者は埼玉県さいたま市在住のオスのクマ。人間年齢でいえば29歳とのこと。漏らしたとしても、仮にそうでなかったとしても、羞恥極まりない記事内容であり状況である。彼は「バスや電車に乗る前は、先にトイレに行っておく」という遠足の基本事項を小学生往事に学習しなかったのであろうか。
なんにせよ爽やかな五月晴れの日曜早朝に、疑問と疑惑と混乱、そしてほのかなアンモニア臭を撒き散らした出来事であった。 ―――――――――――――――
ま、間に合いましたよ! 本当だよ!信じてよ! (その後シャワー浴びて着替えたのは走って汗かいたからだよ!)
|
|