じーらぼ!言戯道場 (G-LABO Gengi-DOJO) 管理人:みやもと春九堂(しゅんきゅうどう)


【過去のつぶやき】
 2008年02月の【家元のつぶやき】のバックナンバーです。

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2008年02月のバックナンバー

チョコとキャンディー(2008年02月20日-04:15)
『小悪魔的な痴女っ子で、男を誘惑する10の方法を大特集』(2008年02月23日-04:35)
米騒動(2008年02月24日-20:26)


チョコとキャンディー


バレンタインにチョコレートを贈る様になったのは、当時まだ馴染みの薄かったチョコレートを、バレンタインデーに愛する人に贈り物をするという舶来の風習と抱き合わせて売ろうという営業戦略にのっけたのがはじまり、というのは有名な話だと思います。

んで、ホワイトデーはというとバレンタインデーでチョコレートをもらった男性が御礼とお返しということにして、キャンディーも売りさばこうぜってなことで、 3月14日にキャンディーを贈るホワイトデーを、全国飴菓子工業協同組合が勝手に作ったってなことらしいです。

しかし、なんでチョコレートにキャンディーなんでしょう。別にクサヤと納豆だって愛が伝わればいいはずじゃあないですか。若干臭いはキツいですが。場合によっちゃあ甘いモノが臭いよりキツイんだぜ!っていう人だっているわけでしょう。

そこで友人らと話しているときに、チョコとキャンディーという組み合わせに勝手に理由付けを考えてみました。

なお本記事における、以下の会話文の内容は、とあるバカな独身男性3人の独断と偏見に満ちた妄想をふくらませた会話を元にしたものであり、実在する個人・団体・国家・史実等とは一切関係がないことを、ご了承の上お読みください。


「チョコはなんだ、その、甘いよな」
「うむ。甘いしほろ苦く、そして溶ける」
「溶けるか!」
「ああ、ズボンのポケットに入れたりしたら大惨事確定だ」
「大惨事か!」

「あとチョコは精力剤ともいわれているな」
「つくのか!精力つくのか!」
「まぁ実際の薬効はどうだかわからんが、むかーし南米を行軍中の征服者達に原住民がカカオ汁を供したら元気百倍になって攻め滅ぼされたとかなんとかいう話があったような」
「あー昔まんがはじめて物語かなんかで観たなそれ!」

「や、実際カカオに含まれるテオブロミンは興奮作用があるらしいぞ」
「ほおー…なるほどなあ」
「んで、だ。そんなものを女性から贈らせてどうしようっていうんだ?バレンタインデーとやらは」
「甘くて、苦くて、溶けて、興奮する食べ物…」
「なんか、甘くて苦いというのは恋っぽいタームではあるな。ほら恋愛イベントだしさ」
「うむ。それに溶けるというのも若干官能的でもある」
挙げ句興奮する、と」

「なんか見えてきた気がするな」
「同感同感」
「つまりこういう事か?貴方に甘くて苦い恋をしているので、わたしをこのチョコのように食べて溶かして!そして興奮して!と、そういうメッセージが含まれている、と」
「ははあ…なんとも大胆だな」
「鼻血でそうなくらい大胆だ」
「だからチョコを食べ過ぎると鼻血がでるとかいうのかもな」
「「…うまいこと云った気になってんじゃねーぞ」」
「ご、ごめん…」

「では次にキャンディーだが」
「当時のキャンディーってどんなんだったんだ?」
「1980年にホワイトデーは開始したらしいが…記憶にはないなあ」
「俺当時5歳」
「まぁ似たり寄ったりだな」

「そもそもキャンディーってなんだ?飴だよな?」
「まぁ広義にいえばそうだけど、飴玉とかはキャンディーではないような気がする」
「あー確かに。キャンディーっていえば、棒がついた円形のやつっていうイメージがあるよな」
「チュッパチャップスとかもそういう感じだな」
「ああいうのは欧米じゃロリポップと呼ぶらしいがな」
「ロリ!?」
「うるさいだまれ」

「うむ」

「まーでもなんだ、その、飴ってのはナメるもんだよな」
「しかり。噛み砕いて食べる輩もいるが、あれは王道とはいえないと思う。舐めてこその飴だよな」
「噛んじゃったら歯にくっつくし、もったいないしね」
「で、それを贈るというのはどういうことかって話だ」
「まぁ甘いのはわかる。甘いに甘いを返すわけだな」
「スピードワゴンのコントならグダグダだな」

「まぁそれはおいといて。つまりこうか、女性からの甘いチョコという恋、そして若干ほろ苦い想いに対して…」
「男から、その返答として甘くてベトベトしたキャンディーを贈る」
「つまりなんだ『YOUとならボク、甘い関係OKなんじゃない』とかそういうメッセージ的なものなのか」
「まぁなんでそこでジャニーさん風なのかはよくわからないが、大体そんな感じなんじゃなかろうか」

「なるほど。しかし女性からのチョコにおける『アタシを溶かしてー』というメッセージに対して、キャンディーはどうなんだ?」
「…『舐めてくれ、噛むなよ』…ってとこか…?」
「…しかも若干棒状的のものを渡して、か…」

「うわー…それはアレだ。こう、最低だわ」
「なんかもう最悪だな」
「何考えてんだ飴業者」
「下手にキャンディーとか贈れないな」
「ああ、危険過ぎるぜ。アメリカなら渡した直後に『次は法廷で会いましょ!』とか云われそうだよな」
「しかも確実に負けるな」
「怖いわー」

「しかし、そうするとなんだ。お返しになにあげりゃいいんだ?」
「まぁキャンディーは避けるべきだろうな」
「穏便に済ましてもらうなら、まぁ菓子折だろうな」
「よしんば裁判になったとしても手心を加えてもらえるように、と」
「じゃあもう山吹色のお菓子しかないじゃないか」
「あーアレね。実在するしね」
「わかりやすくていいかもな」
「じゃあ決まりということで」



というわけで、我々の結論としては
ホワイトデーには『山吹色のお菓子』
推奨するという方向になりました。

(相変わらずバカですんません…でも美味そうだな、このパイ…)



[ 2008年02月20日-04:15 ]  



『小悪魔的な痴女っ子で、男を誘惑する10の方法を大特集』


寒さできしむ身体に悲鳴をあげ、鬱々とするような日々の中、久しぶりに腹を抱えて笑ってしまいました。

元は2ちゃんねるのVip板に『ちょwwwwwスイーツ(笑)雑誌の特集に吹いた』というスレッドが立ったところから話が始まります。なんでもスレ主の妹さんが持っていた雑誌の内容がかなりキテレツで、その中でも表題タイトルの特集コーナーの内容が凄まじかったというものなんですけどね。

ちなみにスレッドの中で、この雑誌はスレ主の妹さんのご友人が「ギャル社長に憧れて」自費出版で作ったものだとか。ISBNコードつき出版の流通ルートにのって世に出回っていない事が悔やまれて仕方在りません。まぁ正直雑誌を自費出版で出すなんていうのはかなり金銭的に凄まじい事になると思うので、ネタかなーと思うのですが。


内容に対する各種のツッコミに関してはVip板の手練れ達や、ブロガーの皆さんが既にいくつもツッコミまくり、文字通り手を挟む余地もありません(笑)。まぁ問題の内容については下記をご覧下さい。


「小悪魔的な痴女っ子で、男を誘惑する10の方法を大特集」

1.お酒の席で、太ももに乗せた手をそのままゆっくりと男の子の股間のほうに持っていっちゃえ!

2.氷を口にくわえてさりげなく首元に落としちゃえ!男の子が「ひゃっふ!」って言ったら、強引に首元にキスしちゃおう!!

3.男の子と二人っきりになったら、「○○くんって耳可愛いよね」って言って耳たぶをかぷっと食べてしまおう。「あうっ!」っとなって、男の子は自然とえっちな気分になっちゃう

4.男の子にお酒の飲ませすぎは注意!あそこが、ふにゃふにゃになってしまうから。程よい量だったら問題なし。むしろ、手の届かないような王子様から抱かれてしまうかも(笑)

5.彼氏が中々積極的になってくれない貴方は、ナッシングパンティにチャレンジにしてみよう。部屋の中で二人っきりのときに、すっと立ち上がってスカートをゆっくりめくりあげれば、彼氏はその瞬間に獣に(照)

6.告白は少しだけエロ可愛くいってみよう!例えば、メールの最後に「今日は○○くんのために可愛い下着をつけて待ってます」とか。これで男の子は貴方の魅力にドキドキ!

7.満員電車で二人っきりになったらさり気なく男の子の股間にタッチしよう。そのときに、「混んでるからごめん」って照れた顔すれば、バッチグー!

8.雨の日は、わざと傘を持たずに薄着で出ちゃえ!そして、ナッシングブラで乳首が透けちゃえば、勝ったも同然!男の子は一日中貴方にドキドキしまくり!

9.ここまで、さり気なくやってもその気にならない男には、真っ正面からぶつかるかしかない!夜の横断歩道で振り向きざまに「○○、セックスしよ!」これで男は撃沈!

10.1〜9をやってもその気にならない男は、ホモ、インポ、マザコンの可能性があります。注意しましょう。可能ならば別れましょう。



何度読んでも、おなかが痛くてたまりません。誰か助けて(笑)。

釣りネタとして考えたのだとしても、あらゆるチョイスがツボをつき過ぎていて、たまりません。なによりも「こういうのありそう!」と思わせるところが素晴らしい。ただまぁさすがに「痴女」というタームを同人雑誌とはいえ女性の手になるモノで使う事はありえないでしょう。

それに今時の若い女性向けなのだとしたら、さすがに9番はない(笑)。懐かしの柴門ふみ原作のヒットドラマ『東京ラブストーリー』の名場面ですよ。17年前のドラマですぜ?5番の行動も、昨年お亡くなりになった少女漫画家すぎ恵美子さんの『愛+少女』を彷彿とさせます。2ちゃんのAA「抱いてよ…先生っ」で有名になったアレです。まぁこっちは若干こじつけ気味ですな、エロマンガやらレディコミやらにもいくらでもありそうですし(笑)。

2番の発想も映画『ナインハーフ(1985)』が元ネタっぽいように思えますし、最近ブログ発で再ブレイク中のルー大柴師匠風な「ナッシング○○」だとか、その他にも、「ゲロゲロ」だとか「チョベリバ」なみの化石層に葬られていた「バッチグー」という言葉を持ってくるあたりも、なんともネタ臭さが感じられますよね(笑)。少なくとも二十代後半か三十代の人が考えたっぽくてたまりません(笑)。


それにしても「痴女っ子」というタームをこれほど体現する行動の数々もないでしょう。『「大胆」という表現など我々は数千年前に通過しているッ!』といわんばかりのナイス痴女っ子ぶりです。

問題はこんな行動をされて男が誘惑されるのかどうかということですが、多分ないでしょうな。まぁせっかくですので(?)シミュレートしてみましょう。そんなわけで、この『小悪魔的な痴女っ子で、男を誘惑する10の方法』を実施された男の手記風にまとめてみました。

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○月×日

今日は合コンだった。紹介された女の子達は可愛かったし楽しかった。ただ一つ気になったというか、ちょっと変な子がいたな。向かいに座っていた大人しそう子だったんだけど、あんまり誰も話しかけないので、ちょっと心配になって話しかけたら、その子が突然立ち上がって、それまで自分の足の上においていた手を、ゆっくりとボクの股間に近づけてきたのだ。あれは一体なんだったんだろう。酔ってたのかな。目も血走ってたし。まぁ特になにもなかったんだけど。何人かとメアドも交換できたし、収穫ありだ。


○月△日

大学からの帰り道、突然首元に冷たい感触があった。驚いて思わず声をあげて振り返ると、昨日の合コンで会った、例の大人しそうな女の子がいた。口いっぱいに何かを頬張って、ボクを見ている。口からはよだれ(?)が出ている…と思ったら、どうやら口に氷を頬張っている様だ。どうやらそれをボクの首元に入れてきたらしい。なにしやがんだ。

突然の事に「なにするんだよ!」と云おうとしたが、素早く背後に回り込まれてしまった。再び冷たい感触。また氷を入れられてしまったらしい。思わず「ひゃっふ!」と変な声をあげてしまった。氷がシャツの中を滑り落ちていく。しかも2個目だ。シャツがぐちゃぐちゃになってしまう。最悪だ。なにすんだこの女。おかしいのか?

正直キレかかっていたけど、怖いので逃げようとしたが、背後から襟首を掴まれてしまった。とんでもない力だ。手を振り払おうと振り返ると、女の顔が目の前にあった。氷が溶けた水と唾液のまざった液体を垂らしながら女の口がボクの首に迫る。正直「食い殺される!?」と思ったが、女はボクの首筋に口を押し当てて去っていった。一体なんだったんだ。怖すぎる。


○月□日

バイトが終わってアパートに帰る途中、またあの女に出会った。周囲に人気はない。昨日の事があったのでかなり警戒していたのだが、今度は口に氷を含んでもいないし、至って普通の様子だ。情けない話だけど若干緊張しながら「な、なに?」と声をかけると、彼女は辺りの様子をうかがいながら近づいてきて、「○○くんって耳可愛いよね」というや、ボクの右耳に噛みついた!物凄い激痛に思わず「あうっ!」と悲鳴を上げてしまう。なんだこの女!どう考えたってまともじゃない!

助けを求めようにも、辺りには誰もいない。この時間は人通りが極端に少ないんだ。この女狙ってやがったのか?!尻餅をついて暴れるボクの右耳に女の鼻息と「ぶじゃるるる!」というようなワケのわからない異音が伝わってくる。痛い痛い痛い!このままじゃ噛みちぎられてしまう!!ボクは女を突き飛ばして耳を押さえる。血が出てるようだ。この女マジでなにしやがるんだ。見上げると既に女はいなかった。明日警察に相談しようか本気で迷っている。


○月◎日

最悪だ。買い物にいってアパートに帰ってきたら、部屋にあの女がいた。鍵をかけ忘れていたのだ。あんまりの出来事に呆然としているボクの目の前で、彼女はすっと立ち上がると、ニヤリと笑ってスカートをゆっくりめくりあげはじめた。わけがわからない。とにかくボクはあまりの恐怖に獣じみた悲鳴を上げながら、ダッシュで部屋を出た。あとから女が追いかけてきたようだったが、どうやらまくことができたらしい。

今日はこのままネカフェで過ごそう。家に帰るのが怖い。男がストーカー被害で警察に行くのってやっぱおかしいんだろうか。


○月◇日

ケータイにあの女からメールが届いた。しまったメアドなんか交換するんじゃなかった。なんかよくわからない意味不明の文章の後に「今日は○○くんのために可愛い下着をつけて待ってます」と書かれている。待っているってどこでだ、また家にいるのか。怖すぎる。家には帰れない。今日もネカフェに泊まることになりそうだ。

しばらくしたら、またメールが届いた。また文末に「今日は○○くんのために可愛い下着をつけて待ってます」とある。怖い。その後も、またその後も。女のメアドを受信拒否に指定して、ケータイを放り出した。ネカフェのPCブースでhotmailをチェックしたら、受信箱のリストに「今日は○○くんのために可愛い下着をつけて待ってます」という件名で大量のメールが届いていて、思わず悲鳴を上げそうになって口を手でふさいだ。

動悸がとまらない。吐き気までしてきた。もういやだ。気が狂いそうだ。


○月▽日

ネカフェから買い物に出た帰り電車で、あの女に遭った。さすがに満員電車だから何も起こらないだろうと思っていたら、人並みの中をぐいぐいと近づいてくる。怖い。なんなんだ。慌てて距離を開けるボク。満員電車の中で追いかけっこ状態だ。車両連結部のドアの前まで逃げたが、まだ近づいてきている。慌ててドアを開けて車両を移ろうとしたが、連結部に入ったところで追いつかれてしまった。後ろ手に連結部のドアを閉める女。必死になって次の車両のドアを開けようとするが、隣の車両も満員でで誰かがよりかかっているのか開かない。絶望だ。こんな狭い中で二人っきりになるなんて、なにをされるかわかったもんじゃない。

必死に後ずさるが狭い空間だ。逃げようもない。恐怖のあまり悲鳴もあげることができない。かすれた音が喉を鳴らすだけだ。その声も列車の轟音にかきけされてしまう。女は自分の体でボクをドアに押しつけると、唐突にボクの股間をまさぐりはじめた。なにしてんだコイツ。振り払おうとするが、狭い空間ではどうすることもできない。それよりも恐怖で身体をうまく動かせない。

女は鬼の様に赤くなった顔でニヤリと笑いながら、ブツブツと何事かを言っているようだが、轟音にかき消されて聞こえない。いや聞きたくもない。怖い。怖すぎる。ようやく電車が止まって、隣の車両に人の動きがあった。ドアを開けようと踏ん張ると、なんとか扉が開く。連結部からそのまま転がりでると、そのまま這うようにホームに飛び出した。降りる駅ではなかったが、そんなことは構っていられなかった。

動悸と吐き気がおさまらず、ホームのトイレに飛び込むと思い切り吐いてしまった。


○月■日

電車での事件の後、二日ぶりに自分の部屋に戻った。電車で遭ったという事はアパートにはいないんじゃないかと思ったのだ。もちろん先回りされている可能性もあったので、ドアを開ける前に耳をそばだてて物音がないか確認し、風呂トイレから押し入れやタンスの中までくまなく探してしまった。なんで自分の家に帰るのに、こんなことをしなけりゃならないんだ。

二日も鍵をかけずに家を空けていたわけだが、特に部屋に変わった様子はなかった。だが、あの女がここにいたことを思い出すと、どうにも身体が震えてしまう。昨日、ホームセンターで買ってきたドアチェーンを設置する。大家さんには「最近物騒だっていうんで…」とだけ話したのだが、「男の子なのにねぇ」なんて笑いつつも許可をしてくれた。

取り付け終わるとようやく人心地がついたのか眠気に襲われた。ネカフェで仮眠はしたものの、どっと疲れがでてしまったのだ。何年かぶりのように感じながら自分のベッドに潜り込み、思い切り熟睡した。

雨が窓を叩く音で目が醒めた。いつの間にか降り始めたらしい、結構強い雨だ。時計を見ると、真夜中の3時だった。カーテンを閉めていなかったので音が雨音が大きく聞こえていることに気がついたボクは、起きあがると窓に向かった。外を見ると酷い大雨だ。2階のこの部屋からでも、街灯下のアスファルトに跳ね返る雨粒が見える。

カーテンに手をかけて閉めようとした瞬間、ボクは思わず息をのんで固まってしまった。そのままくだけ落ちる様にへたり込んでしまう。鏡があれば、眼球がこぼれ落ちそうなほど目を見開いた自分の顔を見られたに違いない。

雨粒が跳ね返るアスファルト。

街灯に照らされたその先に。

いたのだ。あの女が。

白いブラウスを着て、雨の中傘も差さずに立ちつくしている。

大雨に身じろぎもせず、じっとこちらを見ていた。

見ていたのだ。ボクの部屋を。

電気は付けなかったが、ボクが部屋にいる事は気取られてしまっただろうか。おそるおそる体勢を低くして下から窓を覗き込む様に、彼女の姿を探す。いる、確かにいる。雨のカーテンに覆われて表情までは確認できないが、濡れた髪はべったりと顔中にはりつき、白いブラウスもすっかり濡れて肌に張り付いている。そんな状態なのに寒さに震えるでもなし仁王立ちの様に立っている。

全身が心臓になったような激しい動悸と吐き気がこみあげてくる。恐怖だ。恐怖以外の何者でもない。大体いつからあそこにいたんだろう。何時間前から?ボクが眠っている間もずっと見張っていたのだろうか。この大雨の中で。

ボクはそれ以上窓の側にいることができず、カーテンもそのままに再びベッドに潜り込んだ。布団をかぶってケータイを引き寄せる。110番通報すべきだろうか。警察が来るまでどれくらいなんだ?5分?10分?その間中あいつがあそこにいれば、追い払ってももらえるかもしれないが、既にいなければボクはとんだ笑いものだ。そもそも男が女を怖れるなんて。事情を説明しても頭がおかしいのはボクの方だと思われるかも知れない。

「110」と表示された液晶をみつめながら、どうしても通話ボタンを押す事ができない。動悸は震えを伴うようになり、奥歯をかみ合わせる事が難しいくらいだ。それでもギリと強引に奥歯をかみしめ、震えを抑え込もうとする。落ち着け、落ち着くんだ。

だが、次の瞬間ボクは口から心臓をはき出しそうになった。突然アパートのチャイムが鳴らされたのだ。何度も、何度も。ボクは慌てて、それでも極力音を立てないように布団からはい出すと、再び窓を覗き込んだ。

いない。

とすると…。

ボクは何か武器になるものを探したが一人暮らしの部屋には特に武器になりそうなものはない。台所には包丁があるが、さすがにそれはまずいだろう。そもそもあの女がチャイムを鳴らしているとも限らないじゃないか。誰か友達が来たのかも知れない。…こんな時間に?あり得ない、あり得ない事だ。可能性は一つしかない。

それでもボクは一縷の望みをかけて、音を立てずに玄関へと向かった。そして取り付けたばかりのドアチェーンがしっかりかかっていることを確認すると、そっと覗き穴から外をうかがった。

いる。いた。

そこにはあの女がいた。ドアの正面に立ち、右手を挙げて何度も何度もチャイムを押している様だ。濡れた髪が張り付いた表情のない青白い顔は、昔怪談ビデオで見た溺死体を思い出させた。髪同様に濡れて張り付いたブラウスの向こうに乳房が透けていたが、お構いなしの様子だ。まともじゃない。どう考えたってまともじゃない。

口に手を当てて呼吸音すら漏れないように息を潜める。女はしばらくチャイムを鳴らしていたが、やがて諦めた様に右手を降ろすと背中を向けた。ボクはほっと胸を撫で下ろしかけたが、次の瞬間また息を呑むことになる。女は突然顔だけ振り返ると、覗き穴をじっと見つめて、ニヤリと笑ったのだ。

バレたのかと思い、咄嗟にドアから身を離したが、どうやら気づかれてはいなかったようだ。やがて彼女は覗き穴の視界から消えて、階段を下りる音がドア越しに聞こえた。ボクは玄関にヘタレ込み、這いずる様にベッドに潜り込むと、そのまま朝まで震えていた。


□月○日

今、この日記は病院のベッドの上で書いている。入院といっても、それほど大した怪我ではないのだが、頭を強く打ち付けてしまったので、一応大事をとってということらしい。

なんでそんな目に遭ったかといえば、話はあの大雨のあった夜にまで戻る。あの日、夜が明けた頃、ボクはぼうっとしたまま家をでた。あの女に監視されていたこともあって、家にいたくなかったのだ。とにかく一人になることを避けたかった。よしんば彼女と遭遇しても、人通りの多いところでなら、特になにかされることもないだろうという考えがあったことも確かだ。

大学にもバイトにも行く気になれず、体調不良を連絡すると、ボクは当て処もなく街を歩き出した。一人にはなりたくないし、いつもの行動パターンを続けていたら、どこかで張られているかもしれないからだ。この時ばかりは、無関心な雑踏がありがたかった。

そんな事をしていると、段々と落ち着きを取り戻してきた。そして徐々にこれまでとは別の感情がわき上がってきた。これまでは突然の出来事に恐怖というかパニックに陥っていたが、大体何でボクがこんな目に遭わなけりゃいけないのだと怒りがこみあげてきたのだ。

冷静に考えれば、腕力で男が女に負けるわけがない。女を殴る趣味はないが、いざとなればガツンとかましてやればいいのだ。これ以上つきまとうようなら、腕ずくで警察にでもなんでも連れて行けばいいのだ。


そんことを考えながら駅へと向かう雑踏にあわせて歩く。スクランブル交差点の歩行者信号が点滅を始めたので、ボクは急ぐ人達にあわせて小走りに横断歩道を渡りだした。と、次の瞬間、ボクは正面から強い衝撃を感じると、アスファルトの上に投げ出された。続いて後頭部に強い衝撃。地面にしたたかに背中を打ち付けて、呼吸ができなくなる。

どうやら真っ正面からなにかに突き飛ばされたようだ。頭を打ったせいでくらくらとする。音にならないうめき声を漏らしながら、顔だけをあげるとそこにはあの女がいた。突き飛ばしたのは、こいつか!

さっきの決意とともに罵声を浴びせようとしたが、身体が動かせない。彼女はそんな風に地面にうごめくボクを見下ろして、あの表情でニヤリと笑うときびすを返して駅の方へと歩き出す。追いかけようと身体を起こすが、足下が定まらず、今度は俯せに転んでしまう。

そんなボクの気配を察したのか、彼女は交差点の半ばで振り返ると何事か叫び、そして走り去っていった。それがボクが最後に見た彼女の姿だった。


ボクはその後親切な誰かが呼んでくれた救急車でこの病院に運ばれ、いくつかの検査を受けた後、大事を取ってということで入院しているというわけだ。もう入院生活も三日目に入ったが、特に変わった事はないし、あの女の姿もみていない。後頭部を少しすりむいたかなんだかで、ネットを被らされているのが情けないが、どうやら脳の方に異常はないようだ。そう遠くないうちに退院できるだろう。

どうやら軽く事件扱いされているようで、警察の人がきて「キミの事を突き飛ばした相手に心当たりある?」などと聞かれたが、色々面倒なので「突然のことだったんで、相手はよく見てないです」と応えておいた。

事件扱いにするかどうかというようなことも聞かれたが「ボクも急いでいましたし、ぶつかって転んだだけですから」と笑うと、警察の人は苦笑いして「じゃあ、そういうことでいいね」と、なにやら手帳に書き込んでいた。

ボクとしては、どんな形であれ、もうあの女と関わり合いになりたくなかったのだ。目撃者も多数いた様だし、警察が絡んだともなれば、さすがにあの女もこれ以上近寄ってはこないだろうという考えもあった。


それからまた二日程経ってボクは退院した。頭のネットも外したし、脳に異常もない。ただ、転んだ拍子にケータイの液晶が壊れてしまったらしく、これを機に新しいケータイに機種変更する事にした。

特にこだわりもないので、たまっていたポイントを使ってタダ同然で手に入れたケータイの電源をいれる。バイト先や実家には病院の公衆電話から連絡してあったが、まずはバイト先なり実家なりに退院したことを伝えて…と操作しようとすると、メールの受信が始まった。入院中は前のケータイに充電もできなかったので、メールがたまっていたのだ。

どうせ友人からのメールだろうと思っていたのだが、受信に妙に時間がかかっている。メールサーバーにアクセスしているアニメーション画面の下に受信件数が表示され、メールボックスを開けると、案の定友人達からのメールで「学校きてねーけどどうしたんだよ」なんてものばっかりだった。事情を説明するのがめんどくさいなぁなんて苦笑しながら次々とメールを開く。

が、最後の一通は見覚えのないアドレスからのもので、件名は「あんなに頑張ったのに」とされていた。妙な胸騒ぎを覚えながら決定ボタンを押して内容を確認すると。「あんなに頑張ったのに、その気にならないなんて。このホモ、インポ、マザコン。もうお前なんかしらない」とあった。

ボクは呼吸がとまりそうになるのを懸命に押さえ込み、動悸と闘いながらメールをもう一度読み直した。多分、いや確実に、これはあの女からのメールなのだろう。受信拒否にしたのに気づいたのか、自分のアドレスを変えて送ってくるとは、随分手の込んだマネをする。なんとも酷い言いがかりというか、子供じみた罵詈雑言ではあったけど、「もうお前なんかしらない」という一文は、何よりの救いだった。

上等じゃないか。これで晴れてボクは自由の身になれる。なにを勝手に盛り上がって何を思ってあんな事をしてきたのかはわからないが、これでようやく全てが終わったんだとボクは実感していた。


今夜は祝杯をあげよう。ダチも呼んで久しぶりに飲みに行くのも悪くない。退院祝いだといえばおごってくれるかもしれない。ただ女の子は呼ばないでおこう。あんなことがあったばかりだし、男だけの方がよっぽどましだ。女なんかいらないよ。合コンに誘われても当分断り続けよう。仮に女の子とイイ感じになれても、あいつの顔を思い出したりしたら、そんな気も失せて萎えちゃうだろうし。

ボクはメール画面を切ると、アドレス帳を呼び出して悪友共に電話をかけようとしたが、通話ボタンを押す前に、別のアドレスを呼び出すと通話ボタンを押して歩き出した。呼び出し音が2回、3回。通話口の向こうの聞き慣れた声に安心しながら、ボクは話し出す。

「あ、ママ?ボクだけど。うん、大丈夫だよ。ボク、さっき退院したんだ。今度の週末はママのゴハン食べに帰るからね」――。


<了>

-----



どうみても都市伝説系SSです。
本当にありがとうございました。

(オカルト板とかにありそうでイヤだ(笑))



[ 2008年02月23日-04:35 ]  



米騒動


本日昼のことなんですが、ごはんを炊こうと思いましてね。炊飯ジャーの内鍋に、米びつからお米を出そうとしたんですよ。

我が家の米びつは、スイッチ一つで2合分・1合分と出してくれるという、まぁどこのご家庭にあるものとほぼかわらないものなんですけどね。今は家人が旅行中なもんですから、3食分で4合ばっかり炊こうかと2合のスイッチを押したわけです。

1回。ざーーーっという米びつから米が受け容器に流れる音がします。

2回。ざー…。

ん?

米、若干少ないんじゃないか?

受け容器を見てみると、なーんとなくいつもみる4合の米より少ない気がしないでもありません。まぁでも音が小さかったのは、既に受け容器に2合入っていたから、音の響きが少なかったんだろうと、炊飯ジャーの内鍋に米を移して、シンクで研ぎ始めたんですよ。

で、触った感覚で改めて「少ない」と思ったわけです。慌てて米を研ぐ手を止めて、米びつのフタを開けてみますと、中はスカスカ。いわゆる空っぽ。ブンガク的に云えば「米びつの中には本来入っているべき米はなく、ただ空虚だけで埋め尽くされていた」という感じだったわけです。ブンガク的に云ったところで米がねぇことに変わりはねぇんだコンチクショウ。

そりゃね、中に米がなけりゃ2合のスイッチを押しても2合分の米なんか出てきやしませんやね。ポケットの中にはビスケットが一つ♪ポケットを叩いてもビスケットの破片が増えるだけで一つは一つ♪ってことですよ。それともなにか、お前さんは科学忍者隊ガッチャマンの歌を「地球は一つ、割れたら二つ」とか歌ってたクチかいってな話なんですよ。あんまり関係ないですけど。


そんなわけで既に研ぎ始めてしまった米は2合+どのくらいなのかわからなくなってしまったんですよね。まぁ今からでも計量カップで量りなおせば大体はわかるでしょうけど、既に水を含んでしまっているわけですし、正確さには欠けるでしょう。それにそんなことをしたら洗い物も増えるわけで、そんな難儀はしたくありません。

そこで、飯ごうで炊飯をするときの水加減方法でやろうと思ったんです。ちなみに、飯ごうで炊飯するときってぇのは、飯ごうに米を水平に沈めてその上に掌を押しつけ、水が手首にかかるかかからないかくらいの量でOKっていう感じなんですけどね。

でも、そもそも僕の分厚い手じゃ体積が常人と違うわけで、飯ごうに手を突っ込んで手首までで計っても普通サイズの人が手を入れれば全然少なくなるわけですよ。参考になりゃしないんです。デブは湯船のお湯だって少なくていいんです。普通サイズの人と同じ湯量の湯船に入ろうものなら、お湯が溢れまくって、何かに気づいてエウレカエウレカと叫びながらストリーキングしなくちゃいけないんですよ。いや、しなくちゃいけないってこともないですけど。


とまれ、そんなわけで飯ごう型水加減プロジェクトはあえなく頓挫。仕方なく4合分の水を入れてから、大体こんなもんかなーと思うくらいまで少しずつ水を減らして、炊飯スイッチをいれたんです。まぁ水が多い分には、炊けるは炊けるわけで、固くて喰えない飯よりゃましかな、と。

でも、もう気持ちの上では「わーい今夜の晩ご飯はおかゆだよー。明日の朝も昼もだけどねー」ってな具合で、すっかり覚悟完了ですよ。既に常備の梅干しやら、紫蘇昆布やら鰹節やらの在庫状況を確認して、万全のおかゆ迎撃体勢すら整えましたからね。

本来ならば、今夜は新鮮な卵を買ってきたので、炊きたてのほかほかご飯で「生卵かけwith丸美屋味道楽ふりかけ」という、質素ながらも個人的な美味度ランキングではかなり上位に食い込む素敵晩ご飯になる予定だったのが、米の残量確認を怠ったばかりに台無しもいいところです。

生卵かけご飯は、若干固めのご飯に卵が吸われて馴染むのがベストなわけで、おかゆとご飯の中間くらいの飯に生卵をかけた日にゃあ、なんか謎のゲル状の物体になってしまいそうです。卵粥なら卵粥で、きっちり加熱して作りますし、そもそも病人食のお粥じゃあるまいに、粥にするならするでハナっから出汁で米を煮るってなもんですよ。

ああもう、グッバイマイ生卵かけご飯。こんにちは白粥生活。いつもは楽しみで仕方がない炊飯完了の『きらきら星』のアラームも、今では森田童子の名曲『僕たちの失敗』を聴くが如き心境ですよ。まぁ単独での失敗なんですけどもね。


で、先ほど炊飯完了のアラームが聞こえたんで、おそるおそるフタを開けて確認したんですけど、なんと驚いたことに割と普通に炊けていましてね。若干柔らかめではありますが、おかゆにはならずに済んだんですよ。

いやーもー喜んだ喜んだ。思わず米米クラブの『浪漫飛行』を台所で歌い出しちゃいましたからね。米が炊けたくらいで。「飛びまわれ このマイハート♪」ですよ。どんだけお手軽なんだYOUって感じですよね。

そんなわけで、本日の晩ご飯は無事「生卵かけwith丸美屋味道楽ふりかけ」になったんですけど、明日の昼も夜もおそらく同じメニューです。だってお金がないから。そして明日の夜は



【問題】
ここで米を買う金もないことに気づき
愕然とした筆者が取った行動を
50文字以内で答えなさい。

(5点)



[ 2008年02月24日-20:26 ]