夢を見たからかも知れない。どういうわけかだかわからないけれど、無性に『おはぎ』が食べたかった。それも、普通にあんこを塗した上にきな粉をかけたり、黒ごまをかけたりしてあるものがいい。
今日は火曜日のはず。母は稽古に行っているはずだし、父は散歩から戻る時間のはずだ。僕はといえば、投薬処方が変えられて、一日中眠気と闘っているような毎日。いや、闘っていると言うよりは、一食ごとに薬を飲んでは眠り、薬を飲んでは眠りの繰り返しだ。
〆切も上げたばかりだし、フラフラとバイクで出かける気にもならなくて、枕元のケータイをもぞもぞと手繰り寄せて、フリンジをカパりと開けてみた。
4時。随分陽が落ちるのが早くなったものだ。雨でも降っているのだろうか。そんなことを考えながら、リビングに降りて二人ともいないことを確認する。そして、出かけているであろうという考えから、おはぎの購入を頼めないかと電話をしてみることにした。こういう時、家族同居はありがたい。
母は電話にでなかった。きっとまだ稽古の最中なのだろう。父は数コールの後に出た。随分ぼんやりした声で応答している。「今日、母さん稽古で、まだ戻らないと思うんだけど、親父さん今どこ? おはぎ買ってきてもらえないかな」。
「……は? え? どういう状況?」
親父さんは、まるで状況を把握していないようだった。「えーと、だから外に出ているんだったら、おはぎを頼みたいんだけど」。僕も呆然としたまま繰り返す。
「お前さん、今何時かわかってる?」
おっかなびっくり+少しの苛立ち、とでもいえばいいだろうか。そんな表情の声で親父さんの声は返ってきた。その意図するところは、僕の正気を確かめるかのような雰囲気を持っているようで、そう問われた僕の方は、思い切り混乱してしまった。何がどうなっていると言うんだ?
1度ケータイを耳から離して、時計の表示を確かめる。4:05。但しAM。その時ようやく僕は全てを理解した。暮れかけだと思っていた空の色は、明け方になりかけたそれで、僕が起きたのは午前4:00前後だったということ。
なんというバカバカしいことをしてしまったのだ。そりゃ母も電話にでないはずだ。おそらく、ケータイを枕元に置いてあった親父さんは、反応したということなのだろう。
僕は「あーいや、ごめん、思いっきり寝ぼけてました。失礼」「あーうん」。そんな父子の会話を交わして、僕は何故か恐る恐るケータイを閉じた。我ながら寝ぼけもここに極まれりという感じだ。
ちなみに、その数分後、僕の寝ぼけというか薬で頭がどうにかなってしまったのではないかという心配をした母が、三階の自室まで様子を見に来たのは、どうでもいい余録である。
いやはや、それにしても、こんな寝ぼけ方をするのは久しぶりというか、初めてかも知れない。そもそも鬱病は物忘れが激しくなることもあるし、現在処方されている薬には、入眠前後の記憶がすっ飛ぶくらいの強いモノがあったりもするので、そのせいといえばそのせいなのだが、それにしても、ここまでヒドイことになるとは。
あんころ餅が供されました。
……優しい家族でよかったなぁ……。
(超・遠い目)
